教育資金贈与、結婚・子育て資金の一括贈与、ジュニアNISAといったように、世代間の資産移転に対する制度が矢継ぎ早に創設されています。
高齢者に偏在する資産を若い世代に円滑に移転させることで経済の活性化を図るというのが目的ですが、近年問題になり始めているのが「あげ過ぎ貧乏」というもの。
高齢者が子どもや孫にお金をあげ過ぎて老後破綻するという洒落にならないような事例も多数でているようです。そんなあげ過ぎ貧乏にならないためのポイントを紹介します。
あげ過ぎ貧乏とは何か?
冒頭にも書きましたが、教育資金の贈与に対する非課税制度、結婚・子育て資金の一括贈与、ジュニアNISAと当ブログでも税制面などで有利になることが多い資産移転に関する制度を紹介してきました。
制度内容 | |
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教育資金の贈与に対する非課税制度 | 祖父母が孫1人あたり1500万円まで教育資金として金融機関に預ける場合、贈与税が非課税となります。 |
結婚・子育て資金の一括贈与 | 2015年4月からスタートした制度で「出産、育児、不妊治療などにかかる費用、結婚式、披露宴、新居費用」などが受贈者1名あたり1000万円までが一括贈与の対象となり、非課税となります。 |
ジュニアNISA | 投資資金は親や祖父母などが拠出してこども名義で非課税運用することができる制度です。 |
こうした制度が整うことで、子供や孫などから「お金が余っているなら贈与してほしい」などと言われて、ついつい贈与をしてしまい、老後の為の蓄えが不足してしまう。
こんな状況の事を「あげ過ぎ貧乏」と呼びます。ついには家庭の蓄えが底をつき、老後破綻へつながるという負の側面もでてきています。
たとえば「老後資金に必要なお金とそれを貯めるための方法」などでも紹介していますが、一般的に2000~3000万円くらいが老後資金としてあれば安心というように紹介しています。
このような3000万円といったような水準が独り歩きすることで、自分の生活水準などを考えずに4000万円の預貯金があるから1000万円は生前贈与してもOKと考えてしますケースもあるようです。
2000~3000万円というのは「一般的」なケースであるわけで、月々の消費額が多い家計ならもっと必要になります。
特に、沢山の蓄えを老後になって残せているという家計はそれだけ現役世代の収入も大きかったはずで、その水準に応じた消費をしている可能性が高いです。
そうした家計が3000万円あれば大丈夫と考えて安易に生前贈与するのは危険といえるでしょう。
退職後(老後)の資金見積もりを正確に行おう
退職後に退職金などのお金がある程度手に入って、預貯金にも余裕があるという家計で、子どもや孫に援助・贈与をやりすぎて「あげ過ぎ貧乏」となる事例が多数報告されています。
以下のようなリスクや資金需要をしっかりと考え、それを理解したうえで子どもや孫に資金援助(贈与)するようにしましょう。
- 長寿リスクを甘く見てはいけない
- なんだかんだで退職後もお金は使う
- 老後にも思いがけない大きな出費はある
長寿リスク・長生きリスク
まず、日本人の寿命はまだ伸びています。人は生きるためにはお金が必要になりますが、長生きリスクをカバーしてくれるのは「貯金」と「公的年金(終身年金)」「終身タイプの企業年金や私的年金(保険会社の年金)」があります。
公的年金(国民年金や厚生年金)は死亡するまで一生涯貰える老後のベースとなる収入です。ただ、この金額は現役時代の収入や保険加入期間でもらえる金額が変わってきます。
大企業で働き、公的年金(厚生年金)に加えて企業の確定給付年金も十分にあるという方は、正直余裕度の高い老後設計が可能です。
一方で厚生年金のみという方は相対的に少なくなりますし、国民年金のみだった方(自営業など)はさらに少なくなります。
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この公的年金のベースが大きい人は長生きリスク、長寿リスクに対しても保険で備えができているといえます。
一方で、こうした公的年金や企業年金などの終身年金がない人はあくまでも「今あるお金」がベースとなります。貯金は使い切っていけばいずれなくなるものです。80歳まで生きる前提でのライフプランが10年延びたらそれだけでも大きな違いになります。
中には100歳まで生きるという人もいるわけですから、そうしたことはしっかりと考慮して余裕を持たせた貯金を考えておくべきです。
なんだかんだで退職後もお金は使う
最近では高齢者を対象にしたビジネスが盛んです。
退職したらつつましい生活をおくる、というイメージを持っている方も少なくないかもしれませんが、それとは裏腹に現実は高齢者による支出は現役世代よりも大きく下がるわけではないのです。
むしろ、時間が自由になったことでよりお金を使う機会が増えることもあります。最近では「アクティブシニア」という言葉もよく耳にしますね。
高齢化の進行によってますます、高齢者層向けのサービスは増えていくはずで、そうなるとそうした趣味や自分のために使う支出も増加する可能性があります。
自分が使いたいと思ったときに十分なお金が無いというのもつらいものです。
老後も大きな出費はある
老後の大型の支出も考えておく必要があります。大きなところでいうと「住居費用」と「医療費」「介護費用」が挙げられます。
住宅費用
持ち家の場合は、住宅の補修以外にも、高齢化に伴う自宅のバリアフリー化工事などでまとまったお金が必要になる場合もあります。
賃貸の場合、高齢になればなるほど家を借りるのは難しくなってきます。そうなると高齢者を専用に受け付けている住宅や老人ホームなどを利用するしか選択肢なが無くなり、その入居費用などで大きなお金が必要になるでしょう。
医療費
老後(定年後)に必要となる医療費は約1600万円とされています。実際には健康保険に加入しているので自己負担は1割~3割(年齢・所得による)となりますが、それでもバカにできません。
生命保険文化センター(生活保障に関する調査)によると入院一日あたりの自己負担額は平均で19,800円に上ります。平均的な入院期間などを考えると一度の入院で40万円前後の費用がかかることになります。
介護費用
介護の問題もでてきます。以下は2014年時点の厚生労働省発表の健康寿命と平均寿命の差です。健康寿命は少し乱暴ですが、介護を必要としない寿命で平均寿命との差が介護を必要とする期間です。
平均寿命 | 健康寿命 | |
---|---|---|
男性 | 80.21歳 | 71.2歳 |
女性 | 86.61歳 | 74.21歳 |
もちろん、これは平均なので、自分自身の努力(健康であろうとする努力)などで多少の回避は可能です。ただし、実際に介護が必要になった時、お金が無くて介護難民となる……ということが無いように金銭的な手当は必要になります。
では、子や孫への贈与はどうするべき?
冒頭に紹介したような制度を利用するなというわけではありません。
確かに人によっては有利な制度ですし、相続税なども考えると有効に活用した方が税制面でもプラスに働く可能性は十分になります。
ただ、贈与をするときは下記の点を考えておくべきです。
- 自分たちの消費額を考えた上で多めの見積もりをしておく
- 自宅の修繕費などを前もって見積もって確保しておく
- 子供(孫)たちの間で不公平感がでないように計画的に行う
こういった事が大切です。また、贈与を子や孫から求められたときも、一度に多額をの贈与をするのではなく、コントロールできる範囲で少額の贈与を続けると言う方法もあります。
基本として、年間に110万円の贈与までなら贈与税は非課税にすることができます(暦年贈与)。自由度がたかく、自分の財政状況に合わせて額を減らしたり停止することも容易です。
なお、こうした暦年贈与を確実に行うために暦年贈与信託といった信託商品もあります。詳しくは「お金を確実に非課税で贈与する「暦年贈与信託」とは何か?」も御覧ください。
以上、老後破綻への道?子どもや孫への生前贈与の注意点をまとめてみました。
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