平均寿命は医療技術の進歩などもあって年々伸びています。その一方で寿命が延びるということはそれだけ長く生活してお金を使っていくことになるわけで、老後のお金の不安というのも大きくなっていきます。
その老後の不安に対する公的なサポートとなるのが「年金(公的年金)」です。
その年金は原則65歳からの受け取りとなっていますが、この時期を前後させることもできます。これにより受給額が変化するのですが、長生きを経済的なリスクとしてとらえる場合、公的年金は「繰り下げ受給」がお得になります。
2020年5月には年金受給開始年齢を75歳にまで繰り下げられる年金改革法も成立し、6月5日に公布されています。今回は年金の繰り下げ受給についてメリット、デメリットを含めて紹介していきます。
長生きリスクとは?
普通に考えて、長生きするというのはいいことですし、うれしいことです。
ただし、長生きするということはいわゆる老後と呼ばれる期間が長期化することになります。定年は伸びましたが、それでも100歳まで生きれば老後を35年間過ごすことになります。
「老後資金に必要なお金とそれを貯めるための方法」でも紹介していますが、一般に老後に必要なお金は年金を除いて2000万円とも3000万円ともいわれています。ただ、こうした試算は平均的な年齢まで生きるとした場合という仮定にたっています。
ところが、この平均よりも長生きしてしまうとこの試算が崩れてしまいます。長生きしても生活にお金は必要になりますので、その分だけ余計にお金が必要になります。
この長生きすることによって生じる金銭的負担の増加を「長生きリスク」と呼んでいます。
伸びる寿命(老後期間)と足りない老後資金
平成25年簡易生命表(厚生労働省)によると男性の平均寿命は80.21年(0.27年上昇)、女性の平均寿命は86.61年(0.20年上昇)と寿命は年々伸びている状況です。
平成25年の簡易生命表だと現在65歳の方の平均余命は男性で19.08年、女性の場合で23.97年というデータとなっています。
前述のように長生きをしてしまうという事はそれに応じた備えが必要という事になります。
長生きリスクに備える保険
リスクに備える金融商品は保険です。定期保険や終身保険といった生命保険はいわゆる死亡リスクに備える保険だとされています。
その逆の長生きリスクに備える保険が何がご存知でしょうか?それは「年金保険」です。年金保険といっても様々な種類の商品が用意されています。死亡保険と同じように保険金の支払われ方で「定期年金」「確定年金」「終身年金」の3つがあります。
定期年金(有期年金)
長生きリスクに備える保険の基本形といえます。一定の年齢になれば保険金(年金)を受け取れます。受け取れる期間は決まっていますが、その途中で死亡した場合には、本来貰えるはずの年金は消えてしまいます。
確定年金
こちらは長生きリスクに備えるというよりは、貯金に近いです。一定の期間運用して、その運用結果を財源として一定期間で年金として給付するというものです。万が一途中で死亡してもその財源分はもらえるようになっています。
最近、節税効果や将来の老後資金のために注目されている「個人型確定拠出年金(iDeCo)」はこちらの確定年金タイプになります。
終身年金
こちらは長生きリスクに備えるには最適です。一定の条件もとで、死ぬまで年金を受け取ることができるというタイプの年金です。長生きリスク対策としては最も効果的な年金制度といえます。
ただ、この終身年金は保険者(保険を引き受ける側)のリスクが大きいです。なぜなら、平均寿命(平均余命)が伸びていることを考えると大赤字となるリスクがあるからです。民間の保険ではこの終身年金は難しいです。
でも、私たちの一番身近にこの終身年金があります。公的年金です。国民年金や国民年金基金(付加年金)、厚生年金はすべて終身年金となっています。
公的年金の受給額を増やす方法
長生きリスクに備えることができる年金保険としては「公的年金(国民年金や国民年金基金(付加年金)、厚生年金)」があるということはわかりました。
じゃあ、実際にどのくらいもらえるのでしょうか?また、公的年金の金額(受給額)を増やす方法はないのでしょうか?
公的年金の受給額(老齢年金)の決まり方
国民年金は、掛け金を払った期間によって老齢年金の給付額が決まります。また、人によって別に加入することになる、以下の公的年金は下記の条件でも受給額が変動します。
- 付加年金:納付期間
- 国民年金基金:掛け金額と契約時の予定利率
- 厚生年金:現役時代の標準報酬月額(報酬比例部分)
基本的には時代によって差はあるものの「現役時代にどれだけの年金保険料を払ってきたか?」によって老齢年金(老後に受け取る年金額)は決まってくるのです。
平均額については上記で紹介しています。サラリーマンを40年続けた夫と専業主婦のケースで月額20万円くらいということになりますね。
では、もう老後という方は対策の打ちようがないのでしょうか?
年金の受給開始時期を遅らせて受給額を増やす
公的年金の繰り下げ受給というものです。
本来は65歳から受け取れる年金を「繰り下げて(後で)」受け取るようにすることで、毎年の受給できる年金額を増加させることができると言うものです。
ちなみに、前もって受け取ることもできるのですが、その場合は逆に減額されます。
現在の公的年金の受給額の繰り上げ、繰り下げによる増減額は以下のようになっています。
- 60歳から:-30%
- 61歳から:-24%
- 62歳から:-18%
- 63歳から:-12%
- 64歳から:-6%
- 65歳から:増減なし
- 66歳から:+8.4%
- 67歳から:+16.8%
- 68歳から:+25.2%
- 69歳から:+33.6%
- 70歳から:+42%
- 71歳から:+50.4%
- 72歳から:+58.8%
- 73歳から:+67.2%
- 74歳から:+75.6%
- 75歳から:+84%
受給額の割り増しは「1ヶ月遅らせるごとに0.7%アップ」という水準になっています。
仮に70歳までの60ヶ月間、繰り下げを行った場合には、月額42%も年金受給額を増やすことができます。
2020年7月に年金改革法が成立し、従来の70歳までの繰り下げ受給よりもさらに延長できるようになります。なお、この改正は2024年(令和4年)4月から適用されます。対象となるのは「昭和27年4月2日以降に生まれた方」です。
繰り下げ受給をする単純な経済的メリット
メリットは、受け取ることができる年金を増額させることができると言うことになります。
仮に満期(70歳)まで繰り下げをした場合、繰り下げをしなかった場合と比べて、平均的に生存すれば得をします。
仮に、今65歳の人であれば先の平均余命だと、男性の場合で84歳まで、女性の場合だと89歳くらいまで生存するという見込みになっています。この場合、平均余命まで生存すれば男性の場合で4.6%、女性の場合だと12.41%も受け取ることができる年金額を増やすことができます。
一方で年金改革法により75歳まで繰り下げ受給ができるようになりましたが、平均余命を考えると受取額は小さくなる可能性が高いです。
長生きリスクに対応できる
平均余命以上に生存する場合、終身年金(死亡するまで受け取れる年金)である国民年金や厚生年金はさらに多くの年金を受給することができるのでいわゆる「長生きリスクに対する備え」となります。
繰り下げ受給のデメリットは早期死亡リスクと生活費
繰り下げ受給をするデメリットは、早く死亡してしまった場合に「本来だと受け取れるはずだった年金が受け取れない」ということになるわけですね。
これはリスクというよりもどちらかというと“もったいない”という表現の方が強いでしょうか。
もう一つ、繰り下げ受給をする問題は「生活費」を確保しておくことです。
繰り下げによって受給しない間の「収入」がないということになります。何らかの形で仕事をして収入を得ると言う方法や、これまで貯めてきた資産や個人年金なおどを使って生活をする必要があります。
こうしたお金を得る手段が無い方は、繰り下げを使うのではなく通常通りに受給する方が無難と言えます。
年金の繰り下げ受給・繰り上げ受給に伴う損得シミュレーション
下記は公的年金を繰り上げて、繰り下げて受給したときの受取総額を比較したものです。
通常65歳からの公的年金を繰り上げして受給した場合、繰り下げして受給をした場合の公的年金の受取金額(総額)をグラフにしています。
たとえば、70歳から受け取り開始とした場合、65歳から標準で受給するのを総額で超えるのは82歳になってからです。81歳以下で死亡した場合、素直に65歳からもらっている方が総額は大きいということになります。
逆に早死にを考えるなら繰り下げるのではなく繰り上げて貰うほうがお得な可能性もあるわけです。
- 76歳より長生き:繰り上げせず通常の受給がお得になる
- 82歳より長生き:通常の受給より5年繰り下げ受給がお得になる
- 92歳より長生き:5年繰り下げより10年繰り下げ受給がお得になる
こんな感じになります。
長生きリスク対策としての公的年金は優秀な商品
人が死亡するタイミングというのは正直不確実な部分が大きいです。70歳で不運にも死亡する方もいれば100歳まで生存する方もいます。もちろん、長生きをするというのは幸せなことです。
ところが、お金に関して言えば、長生きをすればするほどお金がかかってしまうという事実があります。
そうした中で、国民年金、厚生年金などは死亡するまで受給することができる終身年金は、長生きリスクをヘッジ(回避)することができる有用な金融資産であります。
仮に男性の場合で平均寿命まで生きた場合と、100歳まで生存した場合とで比較すれば年金の総受給額は60%以上も変わることになります。
長生きリスクを回避(ヘッジ)するにあたってそもそも公的年金制度は優れた制度となっているわけです。
イデコ(iDeCo)+公的年金の繰り下げ受給もおすすめ
たとえば、老後の生活費に関しては現役時代に個人型確定拠出年金(iDeCo)を使って積立をしていき、それを原資として生活費とする。その上で公的年金はできるだけ繰り下げ受給をして、老後の“長生きリスク”に対して備えるというのは、攻めのイデコ(iDeCo)と守りの公的年金といった具合で攻守バランス良さそうな組み合わせです。
iDeCoについては以下の記事で詳しく紹介しているので参考になるかと思います。
以上、長生きリスク対策なら公的年金は繰り下げ受給をするのがお得という話でした。
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