資産運用においては「現役時代の運用」と「老後になってからの運用」とで大きな違いがあります。それは労働収入によってリスクをカバーできなくなるということです。そのため、投資・資産運用におけるリスクの取り方もおのずと変わってくることになるわけです。
今回はそんな現役時代と老後の資産運用におけるリスク許容度について紹介していきたいと思います。
若い人と高齢者の資産構造の違い
資産を既に保有している「金融資産」と、将来を含む労働によって得られる収入を「労働資本」とします。金融資産というのは「現金・預金」「株式・投資信託」「債券」「不動産」とかのいわゆる財産です。一方の「労働資本(人的資本)」というのは私たちがこれから労働することによって得られる人生の収入だと考えてください。
一部のお金持ち・資産家は別として、普通の人は若い人ほど貯金(金融資産)は少ないですが、今後の人生で働ける時間は長い(労働資本は大きい)です。一方の老後を迎えた人は退職金や年金資産を含めて金融資産は大きいですが、働ける時間は短いので労働資本は小さいです。
若い人の資産運用によるリスク
上記の概念をベースとして考えてみます。
仮にこの若い人(Aさん20歳)が今後生涯に受け取れる労働収入を2億円とします。これを現在価値に計算しなおすと1億円になるとしましょう。そして金融資産として200万円を持っているとします。この場合、Aさんの総資本は1億の労働資本+200万円の金融資産で10200万円ということになります。
このAさんが金融資産である200万円を運用に回したとします。
リスクの高い株式投資の場合、1年で資産が半分になってしまう可能性もあります。運悪くAさんの投資をは大失敗をして資産が50%減の100万円の損が発生したとしましょう。
ただ、財産が半分になるという大失敗を考えても、Aさんの持つ総資本から見ると影響はあまり大きくありません。100万円の損は10200万円の総資本の0.98%に過ぎません。運用によって資産が半分になってもこれからの労働収入によって十分に取り返すことが可能なのです。
これが若い人がリスクを取った投資をしても大丈夫な理由です。
老後の資産運用によるリスク
仮に高齢者(Bさん65歳)として考えてみましょう。生涯に受け取れる労働収入は0円とします。金融資産としては5000万円(公的年金を含む)とします。
わざわざ説明する必要はないと思います。Bさんは総資本=金融資産であり、同じような投資をしてしてしまうと総資本へのダメージが大きすぎるわけです。今後の労働によってそうしたリスクをカバーすることができない以上、資産運用によるリスクを大きくとることはできません。
資産運用のスタイルはより保守的になるべき理由です。
なお、この点は20歳、65歳という極端な例で書いていますが、30代、40代、50代と年を取るごとに労働収入による労働資本(人的資本)は小さくなっていき、割合としての金融資産が大きくなっていくはずです。
これに従って資産運用・投資で取ることができるリスクの大きさも少しずつ小さくなっていく事になります。
老後の守りの資産運用に向く運用商品や方法
さて、それでは老後の守りの為の資産運用にはどのような運用商品があるのでしょうか。代表的な商品と運用のポイントをまとめます。
○定期預金
金利はほとんどつきませんが、元本の安全が守られた商品です。確実に必要なお金は定期預金ないしは普通預金で守っていくべきです。震災などの万が一の際にも預金なら比較的容易に引き出すことができるというのも重要なポイントです。
資産の一定割合以上は預金で確保しておくべきです。なお、退職後すぐなら「退職金定期預金」のようなお得なキャンペーンもあるので活用しましょう。
参考:退職金定期預金の活用方法と注意点。上手に退職金を運用するコツ。
○個人向け国債(10年・変動金利)
こちらも日本円としての運用なら安心な運用商品です。10年タイプは変動金利なので万が一のインフレ時にもリスク対応できるというのがポイントです。1年たてはいつでも解約できるという流動性の高さも魅力です。
参考:個人向け国債の魅力とリスク
参考:個人向け国債のキャッシュバックキャンペーンの上手な活用術
△投資信託(インデックスタイプ)
投資信託も資産の一部なら運用しても良いと思います。リスクの高い商品よりデリバティブ系や新興国株への投資といったものよりは世界株へのインデックス投資、日本株へのインデックス投資といったようなシンプルなものが分かり易くてお勧めです。
ただし、金融資産全体に対する割合には注意が必要です。株式投資信託の場合、最悪の場合で資産が1年で5割くらい減少するかもしれないという前提でそれでも大丈夫という余剰資金での運用が基本です。
参考:世界の株と債券にバランス投資ができるセゾン投信の「グローバルバランスファンド」
参考:投資信託は銀行と証券会社のどちらで買うのがいい?
△個別株式
投資はしても良いですが、投資信託と同様に考えておくべきです。個別株の値動きは分散された投資信託よりも大きく動くことがあります。あくまでも余剰資金の範囲内で失っても問題がないお金で運用するようにしてください。
×個人向け社債
最近では、金利が低いことから定期預金や国債よりも利回りの高い個人向け社債に注目が集まっています。ただし、社債は万が一のデフォルト(債務不履行)があると元本が戻ってこないリスクもあります。社債を定期預金と同じように考えている方もいるかもしれませんがあまりお勧めしません。
詳しくは「個人向け社債のリスクと過去の破たん(デフォルト)事例」も御覧ください。
社債投資をするなら、リスクが分散された投資信託タイプで投資をすることをお勧めします。
いかがでしょうか。老後の資産運用についての参考になれば幸いです。
以上、老後の資産運用においては「守りの運用」が重要な理由でした。
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