サラリーマン大家さんという言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。サラリーマンという仕事をしながら不動産投資(アパート経営やマンション投資)などを行って、大家さんになっている人のことを指します。マンション1室、2室だけを保有するという人もいれば、アパートやマンションを何棟も所有しているという人もおり、規模は様々です。
目的についても節税を中心に据えている方もいれば、資産形成のためという目的で行っている方もいます。今回はそんなサラリーマン大家について、メリット、デメリット、今後の展望などをまとめていきます。
不動産投資に対する足元の環境は好調
足元における不動産投資は大変堅調です。
2016年のGDP(国内総生産)をみると住宅投資は大変堅調な状況になっています。これは大きく「金利低下」と「相続対策」という2点が影響しているものと考えられます。
マイナス金利でお金が借りやすい状況
2017年現在、マイナス金利政策によって住宅ローン金利などが空前の低金利となっていることからもわかるとおり、貸出金利は低く抑えられています。
そうした中で住宅ローンよりは金利を高めに設定することができる不動産投資向けの融資を銀行などの金融機関も融資拡大しています。そのため、これまでと比べて不動産投資の資金を借りやすいという状況があります。
融資環境が積極化しているため、これまでだとローン審査に通らなかったような人、物件であっても審査に通るようになり、アパート、マンションの建設や購入がやりやすい状況となっているわけです。
相続税対策で不動産による相続財産圧縮のニーズが高まる
また、2015年に実施された相続税の課税最低点の引き下げも影響しています。
詳しくは「2015年(平成27年)の相続税増税に関する変更点とそのポイントのまとめ」でまとめていますが、これによって従来は相続税が課税されなかったような相続案件でも相続税が課税されるようになりました。
不動産は相続財産を圧縮したいという場合に活用される手段としてはスタンダードな物です。
資産を現金や株式などで保有するよりも土地を買った方が相続財産評価額は安くなります。さらにその建物に賃貸物件(アパートやマンション)を建設すればもっと安くなります。
もちろん、居住用の住宅(マイホーム)においても「マイホームの相続と相続税、小規模宅地の特例の基本」などで紹介したように相続税の圧縮効果があります。
こうした状況を受けて、相続税対策をしたい資産家がアパートやマンションを建てて相続財産の税務上の評価額を下げているわけです。タワーマンションがブームになったのもこうした動きが一つとされています。
参考:タワマン節税の基本。資産価値と課税評価の乖離。2018年改正のポイント。
サラリーマン大家になるメリット
続いてサラリーマンを続けながら大家業をするというサラリーマン大家になるメリットを考えてみましょう。
安定した収入があるため融資を引き出しやすい
サラリーマンは銀行融資的には安定していると見なされやすいです。特に勤続年数が長い方は評価されます。そのため、不動産融資の面においても融資を引き出しやすいというのが大きなメリットとなります。
特に大手上場企業のサラリーマンや公務員は最上級の信用という特権を持っているといえそうです。
その一方で、なぜ銀行がお金を貸すのか?というと、小規模な不動産投資程度なら、失敗したって給料という安定した収入があるので、そこから返済は可能なのでとりっぱぐれることは無いという裏勘定が働いていることを忘れてはだめです。
収入の二本目の柱を作ることができる
不動産からの収入(賃料収入)を得ることができれば、給料という収入の柱に加えてもう一本の柱ができるということになります。「収入源を複数持ち分散させる重要性と増やすための2つの方法」でも述べたようにこれからの時代は収入源を複数に分散させていくことが大切です。
家賃収入というインカムゲインは、不動産投資を成功させることができればサラリーマンとしてのお給料以上の安定した収入の柱にすることも期待できます。
所得税や住民税などを節税することができる場合がある
投資用の不動産を購入した場合、その購入代金(建物代金)の一定額を「減価償却費」として経費にすることができます。他にも管理費用や修繕費用、不動産投資ローンの利息なども経費にできます。
こうした経費が家賃よりも大きい場合には、サラリーマンの収入から差額を差し引けます(損益通算)。
サラリーマンの経費としては「給与所得控除」がありますが、これに不動産投資の経費も追加で差し引けるようになるわけです。日本の所得税は累進税率となっているため、高収入の方ほどその節税効果は高くなります。
「額面収入(税込年収・給与)と手取り、所得の違いを理解しよう」なども参考にしてみてください。
不動産レバレッジで億単位の資産形成も可能
不動産への実物投資において最も大きなメリットといえるのが、レバレッジ投資です。実物不動産は担保とすることができます。1棟購入して、その経営がうまくいけばそれを担保にもう2棟目、さらに続けて3棟目……といったながれが成功者となります。
4000万円のアパートなら3棟購入すれば資産1億2000万円達成です。
一方でレバレッジ投資は少ない資金で大きな運用をするために融資(借り入れ)を行います。1億の資産の裏側には例えば9000万円の負債(借金)があるというのも当たり前です。
大きな問題に直面することなく返済し終えることができれば最終的な資本(純資産)とできますが、そこまで到達できるかどうかはわかりません。
シミュレーション通りならそうかもしれませんが、途中で何か問題が起きたときにどうするか?というリスクヘッジも考えておく必要があります。
不動産投資で失敗するリスク・デメリット
サラリーマン大家になる最大のリスクは、投資の失敗です。
マンション投資やアパート経営における失敗は色々です。
- 物件に入居率に対するリスク
- 物件価値の下落
- ローン金利の上昇
などが挙げられます。そうしたリスクとどのように向き合う必要があるのでしょうか?
まずは不動産投資における収入と支出の関係を知る
以下の計算式がプラスでないといけません。
不動産収益=賃料収入-(諸経費+ローンの返済額+税金+修繕費等の積立)
上記の金額でマイナスになるようなら、不動産投資の収支はマイナスになります。ここがマイナスになるということは毎月毎月、不動産投資のためにお金を給料から補てんするか、貯金などから支出する必要があります。これでは不動産投資をしている意味はありません。
物件はどんどん古くなる
たとえば新築のアパートやマンションを購入したり建てたりしたとしましょう。
立てた当初は当然新築なので人気が出やすいです。満室にするのも難しくはないでしょう。
ところが、5年、10年建つと話は変わってきます。物件は古くなります。
競合の新築アパートや新築マンションができるかもしれません。
そうなってくると、年数に応じて賃料を下げなければならないかもしれません。
今は低金利だけど……将来も続く保証はない
冒頭で不動産投資が活況な理由として低金利をあげました。
1、2年で大きく上昇するという可能性は高くないと思いますが、不動産投資のローンは10年、20年程度で組むことが多いはずです。
不動産投資ローンを変動金利で組んでいれば金利上昇が大きく影響します。金利が上がれば、「不動産投資収益=賃料収入-(諸経費+ローンの返済額+税金+修繕費等の積立)」という中での「ローン返済額」が上がります。結果として損益分岐点を押し上げてしまうことになります。
収益<支出の状況でも、短期間なら堪えることはできるでしょう。金額によっても大丈夫かもしれません。
ただし、複数棟のアパートを保有しており、マイナスをサラリーマンとしての収入ではカバーできないという場合には破産への道まっしぐらとなります。
売りたくても売れないリスクがある
ダメになったら、なりそうなら売ればいいと考えるかもしれません。
ところが、不動産は売るときも大変です。
不動産は流動性が低い
都心の超好立地のように誰もが欲しがる物件ならすぐに売れるかもしれませんが、郊外だったり地方都市だったりすると簡単にはいきません。
不動産は株のように簡単には売れません。
早く売りたければ、足元を見られて安い値段で売らざるを得ません。
売却価格がローン残債よりも低いと売れない
いざ買い手が見つかったとしても、売却価格がローンの残債よりも低い場合、銀行が抵当権を外してくれないので売れません。
もしもローン残債よりも低い価格で売りたいなら差額分を一括で銀行に返済する必要があります。それもできないのであれば、売れないので赤字物件を持ち続けて血を出し続けることになります。
空家が増加しているのにアパートやマンションを建てても大丈夫か?
空き家が増加しているという話はニュースなどで耳にした方も多いのではないでしょうか。
不動産投資は「不動産投資収益=賃料収入-(諸経費+ローンの返済額+税金+修繕費等の積立)」という式の通り賃料収入が全てです。
賃借人がいない物件はコストを垂れ流すだけの存在になります。空き家が増えているということは住む人が減っているということ。すでに日本は人口減少社会に突入しており、日本の人口は長期的に減少するという流れは簡単には変えられそうにありません。
そうしたなかで新規にバンバン賃貸物件を立てていっても大丈夫なのでしょうか?
供給過剰になれば家賃は下がる
需要と供給で価格が決まるというのは経済学の基本中の基本です。
人口減少社会という中で需要が減少しているのに、空き家は増加していく、さらに賃貸物件がどんどん建っていくというのであればこのバランスは崩れます。
供給過多になると供給量が増えるので価格(家賃)の下落圧力が働きます。
もちろん、家賃を下げる下げないは大家であるあなたが判断することはできますが、周りに供給過多の賃貸住宅がたくさん登場してしまえば、家賃を下げないと入居者を確保できないという事になりかねません。
今後も日本の人口は増え経済発展していくという拡大ではなく、縮小均衡していくことが考えられる社会で不動産への過剰な投資はバブルといえるかもしれません。
サブリース・一括借り上げだってリスクは大きい
サブリースというのは、不動産業者が物件を借りて(マスターリース)して、それを業者が一般に入居者に貸すというタイプの賃貸形式です。
入居者の有無にかかわらず、大家さんには指定賃料から一定の手数料が引かれた金額が入金されます。そのため、賃料収入が安定すると考える方も多いかもしれません。
しかしながら、サブリース・一括借り上げについては「一括借り上げが抱えるリスク。不動産投資の家賃保証・サブリースは無意味?」でも指摘しているように「家賃減額交渉される可能性がある」ということを忘れることはできません。
局サブリース業者がどれだけ良心的だとしても収入を支出が上回るという事業を継続することはできません。結局は家賃の減額を要求されることになります。
結局、不動産投資はその物件自体が価値(適正な賃料での入居者)を生み出さなければ継続していくことはできないビジネスなのです。
サラリーマン大家になるべきか?
不動産投資は、投資ではありますが、賃貸経営などと呼ばれるように「経営(=ビジネス)」です。
株式投資や投資信託投資のように「投資することを決めて資金を投下すればあとは何もしなくてよい」というわけではなく、銀行や管理会社、入居者などとのやり取りも必要になりますし、様々な「判断」をしなければならない場面もあります。
なので、とりあえずお金(資金)があるからといって不動産投資というのであればお勧めしません。そういった気持ちであれば、実物に投資をするのではなく、不動産への間接投資ができる「REIT(上場不動産投資信託)」の方がおすすめです。
サラリーマン大家になるというのであれば、そういった不動産と関わり続ける、ある意味で覚悟が必要になります。不動産が好きということがサラリーマン大家として成功するコツの一つといえそうです。
以上、サラリーマン大家になるメリット、デメリット。これからの不動産投資・賃貸業はハイリスクか?というところを考えてみました。
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