金融サービスとネット(インターネット)の相性は非常に良いです。多くの金融取引は「数字」をやり取りするものですから、銀行や証券などの多くのサービスは手数料の安さなどもあってインターネットに移行しています。
その一方でネット専用の生命保険会社(ネット生保)は正直言って、ネット銀行やネット証券などの他分野と比較して加入者数(利用者数)はいまいち伸びていないようです。今回はそんなネット生保の利用があまり進んでいない理由を考察していきたいと思います。
ネット生保の利用者・契約者が伸びない
ネット生保の先駆者といえばアクサダイレクト生命保険やライフネット生命(2008年参入)です。
安くてシンプルな生命保険や医療保険を武器に生命保険業界に参入しました。
しかしながら参入から7年が経過した2015年の段階においてネット生保の生命保険のシェアは1%にも及ばない水準となっています。ネット生保の先駆けといえるライフネット生命は創業以来一度も黒字になっていません。
ライフネット生命は2008年にサービスを開始して、2009年、2010年、2011年、2012年と加入者件数を伸ばしてきました。ただし、直近では新規契約件数は頭打ちとなり、2013年から前年比でマイナスとなっています。
他のネット取引と比較すると大きな差があります。たとえば、証券会社(ネット証券)の場合、ネット証券最大手のSBI証券(SBIホールディングス)は野村HD、大和証券グループ本社、三菱UFJ証券に次ぐ第4位の営業収益を上げるほどに成長しています。
ネット銀行でも大手の住信SBIネット銀行、楽天銀行などはそれぞれ70億円ほどの利益をあげるほど成長しています。
こうした差はどこから生まれているのでしょうか?
1)実はそんなにネット生保の保険料は安くない……
ネット生保だからといって保険料が実は思いっきり安いというわけでもなかったということが理由の一つかもしれません。
全体的にみれば大手生保と比較して保険料は安いのですが、一部の代理店販売をしている生命保険の方が同じ保障内容でも保険料が安いというケースも見受けられます。
また、ネット生保はシンプルさを重視しているがゆえに、特定の優良体割引(非喫煙者で健康診断などの結果が良い人)などがないこともあり、そうした割引が受けられるケースでは、一般の生命保険の方が保険料が安いケースもあります。
2)ネット生保は加入がとにかく面倒
生命保険という分野は、保険金詐欺などの問題が起こりやすい分野です。
また、リスクに対して保険料を決めるという性質があるためだれでも加入できるわけではありません。健康状態などによっては加入が断られることもあります。
ネット生保では、既往歴(病気の履歴など)を自分自身で正確に記入する必要があるなど面倒な部分も多いです。病院への通院が多い人は非常に面倒で大変です。
さらに言えば、こうした告知事項は抜け漏れがあるとそれが故意でなくても、保険金が下りなくなるリスクがあるなどといわれるとさらに二の足を踏んでしまいます。
こうした面倒くささが強いというのもネット生保でわざわざ加入しようという人が多くならない原因の一つだと思います。
3)自分から保険に加入したいという人は実は少ない?
日本人は世界的に見ても保険が大好きな民族(保険料の支出が多い)といわれています。
一方で、生命保険や医療保険に自らの意思で加入した人はそこまで多くはなく、セールスレディをはじめとして近年では保険ショップなどを通じて、「あなたに必要な保険金額(保障額)はこれくらいです!」といわれてから加入する人も多いのではないかと思います。
投資や資産運用などは自分が将来使うためのお金ということで前向きにもなれますが、保険は不幸の宝くじと呼ばれるように、保険金がもらえるという時な何かしらの不幸な出来事があった場合です。そういうことに自分から前向きに取り組むのは難しいため、あまり積極的に加入したいという人は多くないのかもしれません。
加入者の保険に対するリテラシーを高める
解決方法の一つとしては、保険のことをよく知ってもらう機会を作るということでしょう。
まずは保険の仕組み自体をよく理解していない人が多いので、金融教育の一環として高等教育(高校生)くらいの段階でしっかりと保険の仕組みを教えることでしょう。
「FPへの保険無料相談利用の注意点」や「来店型保険ショップの問題点と利用者が知っておくべき事実と活用方法」あるいは「銀行窓口、証券会社窓口で投資や資産運用、保険の相談をするのは大間違いな理由」でも指摘していますが、社会に出てから保険のことを相談できる相手はあまり多くありません。
それぞれの、保険ショップ、保険FP、保険のおばちゃん(保険セールス)、銀行窓口のように保険に加入してもらうことでご飯を食べている人の話しか聞く機会は少ないため、保険加入寄りの話しか聞けません。
そのため、できれば公教育の場で保険というものについての基本的かつ中立的な教育を行うべきなのでしょう。
保険の教育によって保険加入者が減るかも
「生命保険・医療保険は損をする金融商品」でも書いているように保険は基本的には損をする商品なんだから、必要最低限でOKというように合理的にみなが判断するようになれば、ネット生保への加入は増えても生命保険市場全体のパイは小さくなる可能性もあります。
一方で、こうした教育をすると、生命保険市場全体は小さくなると考えています。
そもそも日本人は保険大好きといわれるくらい保険の加入率や規模が大きいです。そうなったら、結果的にネット生保にはいる保険料自体も減るかもしれません……。
以上、ネット生保の加入者数がいまいち伸びない理由の分析をしてみました。
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