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行動経済学の理論と実例のまとめ。賢く騙されない消費者になろう

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行動経済学というのは、人の心理的な特徴や特性を反映させた経済学です。経済学では人は合理的に行動するということが前提に考えられていますが、現実には人は合理的に行動しないことがわかっています。

この合理的経済人とそうでない現実社会の人との違いを説明してくれるのが行動経済学です。

こうした非合理性を逆手に取っているようなビジネスもありますので、行動経済学の理論は知っておくことで自分の非合理的な行動を戒めることができるでしょう。

行動経済学に基づく、非合理的な人の行動例

行動経済学は新しい分野の経済学で、2002年にダニエル・カールマンがノーベル経済学賞を受賞して脚光を浴びるようになりました。

経済モデルに人間心理を組み込むことによって、非合理的な人間の行動に一定の法則性を見出すというものです。

  • ヒューリスティック
  • メンタルアカウンティング
  • 双曲割引
  • ハーディング効果
  • 確証バイアス
  • 現状維持バイアス
  • 保有効果
  • フレーミング効果
  • プロスペクト理論
  • サンクコスト(埋没費用)
  • ナッジ効果

上記のように、様々な理論や効果などが研究されています。以下では上記の主だった内容を紹介していきます。

 

ヒューリスティック(人は経験則で動く)

ヒューリスティックというのは、これまで生きてきた経験則を基準として物事を判断すること、直感的に判断することを言います。意識している、していないは別として、無意識のうちに利用している法則です。

経験則とも言い換えることができます。

  • 代表性ヒューリスティック
  • 利用可能性ヒューリスティック
  • アンカリング・ヒューリスティック

といったことが挙げられます。

 

代表性ヒューリスティック

ある特徴を見て全体を判断するというヒューリスティックです。

たとえば、ある暴力沙汰があったとします。以下のAさん、Bさんでどちらが事件を起こした可能性が高いと思うか?という質問があったとしましょう。

  • Aさん
  • 過去に補導歴のあるBさん

今回の件に関しては過去の補導歴は関係ないのに、補導歴がある=暴力事件を起こしそうとして認知してしまうわけです。

他にもピッチャーとキャッチャーがいるとします。

  • やせ型のAさん
  • 小太りのBさん

がいるとします。多くの方はキャッチャーとして小太りのBさんを選んでしまいそうです。プラスの意味でも使われます。

 

利用可能性ヒューリスティック

何かを決めるときに、過去の経験や取り出しやすい記憶をもとに判断することです。

商品を購入するとき、よく見かける商品、過去に買った商品、テレビなどで見た商品などを選択しやすいというものです。だから、どんな企業もマス媒体を通じてテレビCMなどを行うわけですね。

また、過去の自分が体験した記憶、友達の噂や口コミ情報なども利用可能性ヒューリスティック生み出します。誰々が良いといった商品、ダメといった商品といった情報で判断するわけです。

こうした利用可能性ヒューリスティックは「少数の法則」とも言われることがあります。統計上の有名な話として「大数の法則」の逆です。

人はこの大数の法則ではなく、ごく少ない試行・サンプル数で判断するというものです。

  • ○○のタイミングで投資をしてうまくいった
  • 3人の被験者がうまくいったダイエット方法を信用する

柳の下のドジョウのような話ですね。

 

アンカリング・ヒューリスティック

人は最初に提示された初期値の影響を受けやすいというものです。

  • 商品A:5,000円の商品が20%オフの4,000円
  • 商品B:4,000円

なんとなく商品Aのほうがよさそうに見えるというのはアンカリングによるものです。

 

メンタルアカウンティング(お金に色はある?)

メンタルアカウンティングは心の会計、心の家計簿とも訳される、人がお金について感じる価値の考え方の違いについて説明するものです。

同じ10万円でも、労働によって稼いだお金と、ギャンブルによって手にしたお金とでは価値が違って見えるというものです。働いて稼いだお金は大切だけど、ギャンブルで手にしたお金は散財してもOKといった考えになることはありませんか?

人は幸運で得たお金は価値を低く評価するそうで、ハウスマネー効果(あぶく銭効果)と呼ばれています。宝くじで高額当選した人が散財して貧乏になる……なんて話も、このメンタルアカウンティングによる部分もあるのかもしれません。

普段の生活でお金を使うときもメンタルアカウンティングは影響します。

財布の中に10万円入っている状態と5千円しか入っていない状態では、千円の商品を買うときの抵抗感は後者のほうが大きいそうです。財布にはあまり大金を入れておかないほうが無駄遣いを減らせるかもしれませんね。

また、普段の生活では10円単位で節約しているのに、大型の買い物や旅行のようにまとまったお金を使う場面では、小さな差を気にしなくなるということも代表的なメンタルアカウンティングです。

他にもいろいろな例があります。

  1. 5,000円のチケットを買うつもりで来たが、どうやら道中で財布から5,000円札を落としてしまったようだ。なお、財布は無事で十分にチケットを買うだけのお金はある。
  2. 5,000円のチケットを購入済みだったが、道中で落としてしまったようだ。当日券(5,000円)が販売されている。

どちらも経済的な損失は5,000円です。この質問をすると(1)のケースはチケットを買うけど、(2)のケースではチケットを買わないと判断する人が多いそうです。(2)の場合、当日券を購入すると、購入済みのチケットを含め1万円も払う必要があるということで高すぎるという判断をしてしまうわけです。

 

確証バイアス

認知バイアスと呼ばれる中でも厄介なものの一つが、確証バイアスです。

確証バイアスというのは、自分の考えや先入観に対して都合の良い情報だけを集めてしまうということです。たとえば、株式投資をしているとき、保有銘柄に対して掲示板などで情報を探すと、自分のポジションに対して都合の良い意見だけを読んでします。それが確証バイアスです。

後述する保有効果とも相まって、株価が当初の予想よりも下がっていて、本来なら売却するべきなのに保有効果で保有銘柄を高く評価するだけでなく、確証バイアスでその銘柄に対して都合の良い情報ばかり集めてしまう……。なんていうことです。

 

双曲割引(遠い将来は待てる、近い将来は待てない)

今日もらえる5,000円と1年後にもらえる1万円のどちらがいいですか?

こうした質問で普通に考えたら後者の1万円のほうがお得です。
ただし、前者の5,000円を選ぶ人もいます。これは双曲割引(そうきょくわりびき)といって、近い時点の価値を大きく判断し、未来の価値を小さく判断してしまうわけです。

今日と明日の違いは、明日と明後日の違いより大きいわけです。

  • 1年後のダイエットよりも、今日のカロリーが高い食事
  • 10年後の健康よりも、今日もタバコ
  • 20年後の老後よりも、今日のお買い物

将来については不確実性があるため、その分を割り引いて判断するという代表的なバイアスです。

クレジットカードで無駄遣いが増えるといわれるのも、

 

ハーディング効果(みんなやってるは強い)

ハーディング効果とは、他の人と同じ行動をとりたいという心理の事です。

赤信号、みんなで渡れば怖くない。

こんな言葉があるように、合理的に考えるのではなく他の人がやっているから、ついついつられて行動してしまうというようなものですね。

判断をするときに、みんなやってるなら大丈夫ということで、脳のリソースを節約して判断してしまうわけです。

  • 行列ができているお店に並ぶ
  • みんなが買っているからという理由で買う
  • みんなが入っているからという理由で保険に入る

特に、日本人はこのハーディング効果の影響を受けやすそうな気がします。

 

現状維持バイアス(未知に飛び込むのは怖い)

現状維持バイアスというのは、何かを変えるよりも、現在の状況を維持することを望むという心理作用の事です。変化を恐れて行動しようとしないバイアスです。

現在が安定しているなら、無理に変更するのは決して悪くはありません。

ただし、明らかに現状が改善されるような状況であっても、ズルズルと現状維持を選ぶ傾向があります。

  • 月額の料金が確実に安くなるのにサービスの乗り換えをしない
  • 今の会社はブラック企業で転職したほうがいいのに、その活動をしない
  • 貯金が必要だということはわかっているけど、それをしない
  • iDeCo(イデコ)NISAなどを利用するほうがお得なのに利用しない

こういったことが挙げられます。

[bloglink url=”https://money-lifehack.com/education/1615″]

上記の記事でもまとめています。本当に必要なことなら、まずは第一歩を踏み出してみる!それが大切ですね。

 

保有効果(自分が所有するものに高い価値を感じる)

前述の現状維持バイアスと同じに語られることが多いものに、保有効果があります。

これは自分が所有しているモノに対して高い価値を感じること、それを手放すことに抵抗を感じるという心理現象です。人は手に入れるよりも、失うことによる痛みの方を強く感じてしまうためです。

前述の保有効果と、後述するプロスペクト理論(損をするのが嫌い)によるものですね。

 

フレーミング効果(絶対値よりも相対的に選ぶ)

フレーミング効果とは、見せ方や表現を変えるだけで印象や評価が変わる現象です。

  • 10%の確率で失敗してしまう手術
  • 成功確率が90%もある手術

どちらも同じですけど、後者のほうが成功しやすそうな気がします。

  • 3時間待ち
  • 180分待ち

どちらも同じなのですが、後者のほうが短く感じるそうです。こちらもフレーミング効果です。

  • 年会費36,500円
  • 一日あたり100円

後者のほうが安く感じるそうですね。この方法は広告でよく見かけます。

  • 20%オフ
  • 5個で1つ無料

フレーミング効果は、書き方や表現方法一つで人の判断は変わってしまうというものです。これは広告などでは実際に活用されていますね。

 

プロスペクト理論(損するのは大嫌い)

プロスペクト理論というと、何やら難しそうな言葉に見えますが、言葉にすれば“損したくない(損失回避)”の一言です。この損したくないということを課題に評価してしまうために、誤った行動をとることがあるというお話になります。

人は100万円をもらうときの喜びよりも、100万円を失う悲しみのほうが大きいというお話です。

例えば、コイントスのゲームがあります。1回しか参加できません。

  • 表が出る50万円がもらえる
  • 裏が出る30万円を支払う
  • ただし、参加しない場合は5万円がもらえる

参加すれば期待値は10万円プラスのゲームですね。合理的考えたら参加するほうがお得です。ただ、このケースだと期待値10万円よりも、確実にもらえる5万円を選択することが多いそうです。人は損をするのが嫌いなのですね。これを損失回避性と言います。

損失回避性というのは、ある意味で必要です。なぜなら、種の保存を考えるのであれば、チャンスよりもリスクを高く評価するほうが、生存確率が高まるからです。何かわからないことがあるとき、リスクを過大評価しておく方が大失敗をしないというものですね。

このプロスペクト理論に関しては「参照点」「感応度低減性」についても理解しておくとよいです。

 

参照点

参照点というのは現在の位置です。プロスペクト理論における得や損というものは「現在の状況」を基準に判断するというものです。何が言いたいのかというと、お金の損得を考える場合、現在持っているお金が心理的価値の基準になるということです。

 

感応度低減性

感じ方はだんだん鈍感になるというものです。
年収1000万円の人の収入が100万円増えるのと、年収100万円の人の収入が100万円が増えるのとでは、増額自体は同じですが、よろこびは当然後者の方が大きいでしょう。マイナスも同様で、無借金の人が借金をするのは抵抗感がありますが、すでに借金をしている人はそれを軽く考えやすくなります。

 

必ずしもリスク回避にならないケースもある

プロスペクト理論で面白いのは、人は“損をしている状況だとリスク選考的になる”という点も指摘されています。これは損失を確定させるよりは、可能性としてはその損失をなくす方法があるという選択肢を高く評価することによるものです。

ギャンブルや投資などで損をしている状況だと一発逆転を狙いがちになるというのもプロスペクト理論で研究されています。

 

サンクコスト(埋没費用)

サンクコスト(埋没費用)もよく知られている行動経済学の分野です。サンクコストとは、これまでに費やしたお金や手間の事です。

たとえば、毎月50万円の赤字を生み出している事業があるとします。でも、この事業はすでに5000万円を投資しているとします。合理的に考えれば撤退をするべきなのに、撤退できないというのはサンクコストが影響していると考えられます。

有名な例は超音速飛行機のコンコルドの例があります。開発費や維持費が高くどうしても利益の回収は無理だとわかっていたのに、続行したという話です。そのため、サンクコストについて「コンコルドの誤謬」というように呼ばれています。

過去にかけたお金(コスト)は戻ってくることはないのですが、そのコストを考えることで合理的な判断ができないという行動経済学の一分野です。

お金をかけたという金銭的なところだけでなく、手間をかけた、時間をかけた、といった部分もサンクコストになりえます。

 

ナッジ効果(知らないうちにコントロールされてる?)

ナッジ効果・ナッジ理論というのは、行動経済学で相手の選択肢を制限することなく、人の行動を誘導する方法という意味で用いられます。

相手に強制することなく、自分にとって都合の良い行動をするように促すことを意味します。

  • 初期設定にしておく
  • インセンティブを与える
  • フィードバックする
  • 選択を分かりやすくする

上記4つが代表的なテクニックとされます。

 

初期設定(デフォルト)にしておく

望ましいものに予めチェックをつけておくというものです。人は特に問題が無ければチェックを外すことはないとされます。

有名なのは臓器移植に関する同意書のお話です。ドナーカードへの登録の質問文だけで登録率が大きく違ったという結果が出ています。

  • 臓器移植に賛成の人は〇を:同意が少ない
  • 臓器移植に反対の方は〇を:同意が多い

後からチェックをつけるのは初期値と違うからつけないというわけですね。

 

インセンティブを与える

分かりやすいですね。ポイント還元などをすることで望ましい方向に誘導するというものです。お店などでも売り出したい商品にだけポイント〇倍といったようにすることがあります。

また、国家レベルでも家電エコポイント、補助金・助成金、税制などを使うことで政策的に望ましい行動を消費者や企業にしてもらおうと誘導することがあります。

 

フィードバックする

ある行動をとることで反応が返ってくる仕組みを作ることで自発的な行動を促すというものです。

 

選択を分かりやすくする(選択肢の構造化)

おすすめ、人気、期間限定といったラベルを用いることで、選択肢を分かりやすくするといったものですね。

 

無くすことはできないから、うまく付き合うことが大切

ここで紹介したような行動経済学で研究されている様々な理論や効果は、それを意識したからといって無くすことはできません。

一見、非合理的に見える行動は見方を変えると脳の考える負担を減らし、スピーディーに判断するために役立っている面もあります。

自分を含めた人間は合理的に正しく判断できるわけではないということを理解することが大切です。重大なことを決める局面ではヒューリスティックやフレーミングなどによって間違った判断をしないように、いったん立ち止まってじっくり考える場面も必要だと覚えておきましょう。