中小企業経営者・自営業者の退職金制度として知られている「小規模企業共済」。この共済制度は節税という意味で非常に優れている金融商品となっています。まだ加入していない方にはぜひ活用してもらいたい制度です。
節税効果に加えて掛け金を自由に変更できるなど利便性が高い退職金づくりの方法です。今回はこの小規模企業共済の特徴やメリット・デメリットなどを分かりやすくまとめていきたいと思います。
小規模企業共済とは?
小規模企業共済とは、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が運営して利う共済制度です。小規模企業の個人事業主や共同経営者、役員の退職金を貯めていく仕組みです。また、退職金としてだけでなく、事業の緊急時には積み立てている共済金の一部範囲内での借入もできるようになっています。
さらには、社長(代表者)の万が一の場合の財産としても活用いただけます。
最大のメリットは節税効果
掛け金は全額所得控除の対象となります。通常の生命保険料控除や年金保険料控除と比較したらかなり有利になっています。(税額控除の対象となるのは共済保険料を支払っている個人です。)
ちなみに、このメリットは所得が多い方ほど高くなります(日本の所得税は累進課税制度となっており、高所得者ほど税率が高くなるため)。
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下 | 5% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
日本の所得税率は上記のようになっています(2017年3月現在)。これに一律10%の住民税が課税されます。
仮に課税所得が500万円の人は所得税+住民税で30%の税金を納めることになるわけです。ここで小規模企業共済に加入して掛け金を払うと、その金額が全額所得控除されます。つまり、所得から差し引けます。年間に50万円の掛け金を支払うと、課税所得は500万円から450万円に下がります。結果として税金は50万円×30%=15万円分安くなります。
ちなみに、課税所得は収入ではなく、収入から各種控除を差し引いた金額となります。詳しい計算方法については「額面収入(税込年収・給与)と手取り、所得の違いを理解しよう」もご覧ください。
小規模企業共済の毎月の掛け金の下限上限と変更
1,000円~7万円の範囲内で500円単位で決めることができます。加入後も増額や減額ができるので、余裕がでてきたら増額したり逆に余裕が無い場合には減額したりすることもできます。
普通の保険の場合は掛け金の変更(特に引き下げ)は「一部解約」などとなって、契約者に不利になることが多いのですが、小規模企業共済の場合はペナルティなく引き下げることができます。
引き下げには要件があります。と書かれていますが、この要件自体厳しいものではなく、業績の悪化などでも認められます。
一般的に節税を目的とするような民間の保険(生命保険等)の場合、掛け金の減額などは部分解約扱いになるなど非常に大変なのですが、小規模企業共済では比較的簡単にできるというのもメリットだと思います。
また、掛け金は一定の予定利率において運用されます。
- 平成8年4月以降:4.0%
- 平成12年4月以降:2.5%
- 平成16年4月以降:1.0%
となっています。市場金利の下落を受けて予定利率も下がっていますが、他の金融商品と比較しても高い金利を提供しているものと考えます。平成16年以降は1.0%と低いですが複利で運用されるので最終的な単純利回りはもっと高くなります。
なお、法人解散時などの共済金Aに該当する場合は、平成16年4月以降の場合で1.5%の予定利率が適用されるなどより有利な形で共済金が支払われます。
共済金(退職金)の受け取り・税法上の取り扱い
共済金は事業の廃止(廃業)や退職した場合に受け取ります。満期はありません。
また、共済金の受け取りは税法上「退職所得」として扱われます。そのため、通常の所得税よりも税制上で優遇されます。(分割受け取り(10年・15年)を選択した場合は公的年金等の雑所得扱いとなり、こちらも同様に優遇されています)
なお、小規模企業共済以外に会社から退職金を受け取る場合や個人型確定拠出年金に加入しておりその年金を一時金として受け取る場合には合算する必要がありますのでご注意ください。
掛け金は一定の範囲で借入することができる
小規模企業共済の掛け金として支払っている金額(プールしている金額)は一般的な貯蓄性の保険と同様に、一定の範囲内で借入することが可能です。担保となるのは掛け金なので担保などは不要です。
事業が厳しくなってしまったときにはこれを担保に借入をすることもできます。ただし、注意点の一つとして事業の存続が危機的というレベルに達しているときは小規模企業共済を使った契約者貸付は利用しないほうがいいかもしれません。理由は後述します。
小規模企業共済は差押禁止債権
小規模企業共済の受給権は差押禁止債権となっています。つまり、借金を背負ったとしてもその借金のカタに取り立てることが認められていない債権です。また、事業がうまくいかずに、会社の倒産・自己破産となった場合でも、特別法により自由財産とされており、自己破産した場合でも財産を残すことができます。
前述の契約者貸付として利用すべきではないと述べたのは、小規模企業共済の財産は万が一の際の生活防衛のための資金として活用することができるためです。
小規模企業共済の財産に手を付けなければならないほど厳しいのであれば、その財産は残したままで破産したほうがその後の生活再建でも資産を一部残せるというメリットがあります。
小規模企業共済のデメリット・リスク
じゃあ、こんなに節税効果の高い魅力的な保険(共済)制度にデメリットやリスクはないのでしょうか?
加入資格・加入条件があり加入できない場合もある
小規模企業共済には加入資格があります。例えば社長や経営者、役員であっても一定以上の規模の企業の場合加入できません。
例えば製造業の場合常時使用する従業員が20人以下、サービス業は5人以下など。
- 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
- 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
- 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
- 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
- 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
また、以下に該当する場合は加入できません。
副業的に会社を経営している場合(例えばアパート経営など不動産投資)などは主たる事業は会社員とみなされ加入できません。
- 配偶者等の事業専従者(共同経営者の要件を満たしていない場合)
- 協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、NPO法人(特定非営利活動法人)等の直接営利を目的としない法人の役員等
- アパート経営等の事業を兼業している給与所得者(法人または個人事業主と常時雇用関係にある方)
- 学業を本業とする全日制高校生等
- 会社等の役員とみなされる方(相談役、顧問その他実質的な経営者)であっても、商業登記簿謄本に役員登記されていない場合
- 生命保険外務員等
- 独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する「中小企業退職金共済制度」、「建設業退職金共済制度」、「清酒製造業退職金共済制度」、「林業退職金共済制度」の被共済者である場合
1年以内の解約の場合は全く戻ってこない
制度加入から1年以内に解約あをする場合には掛け金は掛け捨てとなります。なので、短期的な節税を考えている方には不向きです。
ちなみに、死亡など保険事故があった場合も同様です。このリスクを考えると最初の1年目は少額の掛け金でスタートするのがいいかもしれませんね。
退職や廃業以外の理由での解約時は一時所得扱いとなる
解約時の扱いには大きく4つのパターンがあります。このうち、共済金A~準共済金の場合、共済金の受け取りは「退職所得」となり税制上優遇されますが、「解約手当金」の場合には一時所得扱いとなり、受け取ったときに多額の税金を支払う必要があります。
- 共済金A・・・会社の清算・事業の廃止などがあった場合
- 共済金B・・・65歳以上で180ヶ月以上掛け金を納付している場合。
- 準共済金・・・事業の譲渡や会社役員の場合は退任した場合
- 解約手当金・・・それ以外の場合
ただ、解約という選択を選ぶ方はほとんどいないと思います。
解約手当金の場合、納付期間が20年以上必要
共済金A~準共済金であれば、納付期間が5年以上あれば共済金の受取額は掛け金額以上になりますが、解約手当金の場合、受け取り金額が掛け金を上回るのは240ヶ月以上(20年以上)となります。
ただ、解約という選択を選ぶ方はほとんどいないのではないかと思います。法人であれば解約でなく、退職(退任)にしてしまえばいいだけです。個人事業なら廃業すればいいことになります。
利回り(予定利率)が低い
小規模企業共済の掛け金は一定の利回りが約束されています。ただし、平成16年以降に設定されている予定利率は1%にすぎません。
確定利回りと考えると昨今の定期預金などの利率と比べてはるかに高いという見方もできますが、老後資産の運用といった考え方をするのであれば少し物足りなさも感じますね。
要するに、経営者の退職金としての目的以外での利用の場合はかなりメリットが消されてしまう商品となります。ただし、事業主や経営者でこの保険(共済)から脱退するというのは多くが廃業(清算)または退職が理由になるかと思いますので、この点にあまりこだわる必要はないと思います。
ちなみに、1年未満の解約での共済金の受け取りがゼロになるのが怖いという方は最初の1年間の掛け金は最低金額の1,000円にしておけばそのリスクはわずか12000円です。
こうしたデメリットを考えてみても小規模企業共済はかなり魅力的な制度です。加入条件を満たしている方はぜひ導入を検討してみましょう。
>小規模企業共済(中小企業基盤整備機構)ホームページはコチラ
ちなみに、加入したい方は「商工会」「青色申告会」「金融機関」などでも受け付けができます。税理士さんを入れている場合には税理士さんに相談したらおそらく取り次ぎ(紹介)してくれると思います。
個人事業主でも加入できますし、小規模企業共済は中小企業経営者・事業主なら絶対に抑えておきたい将来のための退職金・年金作りの制度だと思います。特に、長く利用するほどメリットが増えますので新しく起業したという方も毎月1000円からでいいので早い時期から加入しておくことをお勧めします。
個人型確定拠出年金(iDeCo)との併用利用も可能
ちなみに、小規模企業共済と同じく節税面のメリットが大きい個人型確定拠出年金(iDeCo)との併用も可能です。
それぞれ上限まで掛け金を支払えば社長や代表者のかなりの所得の圧縮にもつながるはずです。
小規模企業共済 | 個人型確定拠出年金 | |
---|---|---|
掛け金(個人事業主) | 最大84万円 | 最大81.6万円 |
掛け金(法人経営者) | 最大84万円 | 最大27.6万円 |
掛け金の税務上の扱い | 全額所得控除 | 全額所得控除 |
途中解約 | 1年間は不可でそれ以降は可能になります。ただし、任意解約の場合、20年未満だと払い込んだ額を下回ることになります。 | 途中解約は不可 |
資金の借り入れ | 可能 | 不可 |
掛け金の運用 | 平成16年以降は予定利率1%で運用されます。基本的には元本保証運用となります。 | 運用は自分自身で行います。リスクを取らない運用もできますが、制度的には投資信託等でのリスク運用が基本です。 |
満期 | 定めなし。ただし、15年以上掛け金を払い、満65歳以上の方なら事業を続けながら老齢給付として受け取ることができます。 | 原則60歳 (50歳以上の加入の場合、最長65歳となる) |
受け取り方法 | 一時金または分割 | 一時金または分割 |
それぞれに多少の違いがありますので、自分に合ったものをそれぞれ上手に活用してください。
なお、個人型確定拠出年金についてもっと詳しく知りたいという方には「個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリット、デメリット」のページでより詳しく紹介しているのでこちらもご一読下さい。
なお、企業経営者にとって個人型確定拠出年金(iDeCo)は小規模企業共済と同様に、年金資産が差し押さえ禁止財産であるということです。受け取りは60歳以降になってからですが、老後の財産を万が一の場合でも残していくことができます。
[bloglink url=”https://money-lifehack.com/insurance/public/401k/3394″]
なお、個人型確定拠出年金は金融機関に直接申し込みが必要になります。おすすめの金融機関は運営管理機関手数料を完全無料としているSBI証券または楽天証券です。
なお、個人型確定拠出年金について詳しくは以下の記事でも証券会社(運営管理機関)について比較しておりますのでこちらも参考にしていただければ幸いです。
[bloglink url=”https://money-lifehack.com/asset-management/5790″]
小規模企業共済は早くから始めるべき!
特に、個人事業主やフリーランスはサラリーマンと違い、老後に受け取れる年金額は小さくなります。
将来受け取れる年金額は国民年金のみの人(フリーランスや自営業者)と厚生年金の人(サラリーマン)との間ではかなり大きな差がでています。
今の収入はよくても、長い老後の生活を考えると国民年金だけでは絶対的に不足します。その老後を考えた場合、有利に積み立てが可能な「小規模企業共済」は有利です。
多少ではありますが、一定の利回りが保証されているという点も魅力です。20年間という比較的長い期間の加入が必要だということを考えると早めの手続きがおすすめです。
以上、社長・自営業・フリーランス必見の小規模企業共済での節税・退職金作りというお話でした。
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