会社を解雇されたときだけでなく、自分の意志で退職をした時にも受け取ることができるセーフティーネットが失業保険(失業給付)です。会社を辞めた後の休職期間中に失業給付金を受け取ることができる制度です。ただし、失業保険の受給には一定の条件があり、受給までに時間がかかることもあります。
また、失業保険がもらえるという場合でも、失業保険を受給することによって扶養が認めらないといった問題が生じるケースもあります。今回はそんな会社を辞めて失業保険を受給する時に知っておきたい基本をまとめていきます。
失業保険を受給するための条件
失業保険の給付を受けるにはいくつかの条件を満たしているケースがあります。
- 離職日以前の2年間に失業保険の被保険者期間が12カ月以上ある
- 本人に就職する意思、能力がある
- 積極的な求職活動を行っている
以上の3点です。
失業保険というのは労働保険の一種で、そもそも就業中に雇用保険に加入していないと対象になりません。アルバイトやパート労働者も対象ではありますが、週20時間以上の労働などの条件を満たしている必要があります。
参考:雇用保険のしくみや加入条件、計算方法、失業保険や育児給付、介護給付の仕組み
短時間のパートタイムの方や、そもそも雇用保険の対象外となる大学生(昼間学生)や経営者の方などはそもそも雇用保険に加入していないので失業保険を受給することはできません。
ハローワークにおける失業の定義
また、「失業」というものの定義も考えておく必要があります。ハローワークでは失業の定義を定めており「会社を辞めた=失業」という単純な図式ではありません。
失業状態というのは「本人に就職する意思、能力がある」「積極的な求職活動を行っている」という条件があるように、今すぐ働ける人で働く意思がある人が失業状態です。
下記のような条件に当てはまる人は失業状態とは認定されません。
- 妊娠や出産、育児などで就職活動をしていない人
- 病気や怪我などでそもそも就職できない人
- しばらくの間は就職活動をしないでリフレッシュしてから再就職しようという人
- 寿退社(結婚退職)などで専業主婦(夫)になろうと考えている人
- 自分で事業を始めようとしている人(収入は問いません)
- 大学や専門学校などの学業に専念する人
- 就職活動に高望みをしすぎている人
表向き仕事はしていないけど、失業中ではないという人には失業保険は給付されません。虚偽の申告で不正受給すると受給額の3倍を返還するルールとなっています。
失業保険の給付を申請する手続きの流れ
失業保険の給付申請はハローワークで行います。ただし、最初から失業給付申請をするわけではありません。まずは失業の要件である求職しているという条件を満たすために、求職の申し込みをする必要があります。
求職の申し込みが受理されると、失業保険の受給資格を得ることができます。
初日には下記のものを持って行くようにしましょう。
- 離職票(退職した会社から送られてきます)
- 雇用保険被保険者証(入社時か退社時に会社から渡されます)
- 印鑑
- 写真(写真サイズは縦3cm×横2.5cm)
- 普通預金通帳(失業保険の振込先)
- 本人確認書類(免許証など)
初日はしおりをもらって終了となります。
待機期間中は職探しも働いてもだめ
失業保険の受給資格を得てから7日間が本人確認等のための待機期間となります。待機期間は失業中であっても失業給付はされません。
待機期間中にアルバイトであっても働くとその日数分だけ待期期間が伸びてしまいます。
就職活動をすること自体に問題はありませんが、待機期間中の再就職は後述する再就職手当の不支給事由にあたりますので、早く再就職したいという場合でも待機期間中はゆっくり休んでおいたほうが良いかと思います。
情報の収集などに時間を充てるようにしましょう。
雇用保険受給説明会(初回説明会)に出席
待機期間終了後に「雇用保険受給説明会」が開催されるのでそれに出席します。約2時間ほどで雇用保険の受給についての説明が行われます。不明な点があればここで質問しましょう。
・求職活動計画書
・雇用保険受給資格者証
・失業認定申告書
が説明会で配布されます。
その後は求職活動をしましょう。
第1回失業認定日(初回認定日)
説明会の約3週間後に初回の認定日があります。初回認定日に失業認定報告書を提出し問題が無ければ失業手当が給付されることになります。
後述する特定受給者として給付制限がない場合、その7日後に失業給付が振り込まれます。一般受給者として待機期間が設定されている場合は、その初回認定日では振り込まれずに第2回認定日の後になります。
第2回失業認定日
第2回認定日は特定受給者の場合は初回認定日の28日後(4週間後)となります。なお、認定日の間に最低でも2回以上の求職活動実績が必要になります。
一般受給者の場合は、初回認定日から3カ月の待機期間があるため3カ月と2週間ほどの期間があきます。この間に3回以上の求職実績が無いと失業保険の給付は受けられませんのでご注意ください。
認定日の7日後に失業保険の給付金が振り込まれます。
第3回失業認定日
第2回と第3回の間は一般受給者も特定受給者も同様に4週間後(28日後)となります。
2回の求職実績が必要なことは変わりありません。その後も給付期間に応じて第4回、第5回といった具合に認定日が訪れます。
失業保険における一般受給者と特定受給者の違い
失業保険においては一般的には「一般受給者」と「特定受給者」の二つに分けることができます。
一般受給者
自己都合、定年、懲戒解雇などによって離職した人となります。多くの人が会社を辞めるのは自己都合なのでこの一般受給者となることが多いです。受給に関しては給付制限がかかります。
特定受給者(特定理由離職者)
会社の倒産や会社都合による解雇などによって離職を余儀なくされた人となります。一般受給者と比較して、再就職の準備もできないため、給付制限がありません。また、失業保険の受給期間も長くなります。
年齢 | 給付制限 | 1年未満 | 5年未満 | 10年未満 | 20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
一般理由離職者 | 15歳以上65歳未満 | あり (3カ月) |
0日 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
特定理由離職者 | 15歳以上30歳未満 | なし | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | 180日 |
35歳未満 | 180日 | 210日 | 240日 | ||||
45歳未満 | 240日 | 270日 | |||||
60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |||
65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
給付制限(3カ月)
失業保険には7日間の待機期間の他に「制限期間」というものがあります。制限期間は自己都合退職をした場合にかかる制限です。会社都合による退職と比べると失業保険の給付に一部制限がかかっています。
実際には初回に申し込みをした「受給資格決定日」から7日間の待機期間を経ての初回説明会の日から数えて3ヶ月間となりますので、会社を辞めてから最短でも3カ月と7日間は失業保険を受けることはできないということになります。
失業保険の基本手当はいくらもらえるのか?
失業保険として給付される金額(基本手当日額)は、退職前6カ月の給料を日額換算した上での50%~80%となります。賃金日額は「退職前の6カ月間の給与÷180日」で計算されます
賃金日額が高いほど給付率が下がるようになっているので、全体的な受給額は平均的になります。年齢に応じた上限額も設定されています。
離職時の年齢 | 下限額 | 上限額 |
---|---|---|
29歳以下 | 1,832円 | 6,370円 |
44歳以下 | 7,075円 | |
59歳以下 | 7,775円 | |
64歳以下 | 6,687円 |
(平成28年8月2日以降)
認定日は4週間ごとなのでおおよそ上記の日給額の28日分が振り込まれる計算となります。初回は7日間の待機期間があるため21日分となります。
職業訓練(離職者訓練)が利用できる
失業しており、ハローワークで仕事を探している人は離職者訓練を受けることができます。離職者訓練を受けると、資格取得など無料(テキスト代は有料)でできるほか、給付制限期間があってもすぐに失業手当が給付されるなどの金銭的なメリットがあります。
詳しくは「公共職業訓練のメリットと注意点。離職者訓練なら失業手当がすぐもらえる」でもまとめていますので、こちらもご参照ください。
失業保険を受けている間のアルバイト
失業保険は確かに生活のためのセーフティーネットんとなりますが、実際に受け取れる金額はそこまで多くありません。貯金が少ない方などは本当にギリギリになることでしょう。
一般理由の方であれば3か月の制限期間もあるのでなおさらです。
そうした期間の生活費の補てんとしてアルバイトをすることに問題はあるのでしょうか。
まず、前述の通り待期期間中はNGです。その日以降は、1日4時間未満または週20時間未満のアルバイトという内職の範囲内ならハローワークに申告さえすればOKとなります。
大切なのはハローワークへの申告です。申告を忘れるとたとえ過失であっても失業保険の不正受給として3倍返しとなる可能性もあります。ご注意ください。
稼ぎすぎると失業保険が減額されることがある
計算式=基本手当日額+アルバイト等での1日分の収入額-1,286円(控除額)
上記の式で計算をしてみて下さい。この金額が前職での賃金日額(退職前の6カ月間の給与÷180日)の80%を上回ると上回った金額だけ失業保険が減額されます。
たとえば、あなたは26歳で前職で1日当たり12,000円の給料をもらっていたとしましょう(賃金日額)。
この場合の基本手当日額は上限の6,370円となります。控除額の1,286円を差し引くと5,084円となります。
5084+アルバイト代=9600円(12,000円×0.8)
アルバイト代=9600-5084=4,516円
つまりこのケースだとアルバイト料が一日に4,516円を超えると失業保険が減額されるという事になるわけですね。給付の制限は賃金日額によって大きく左右されます。前職が高給取りだった人はアルバイトで給付額が減額される可能性は低い一方で、前職での収入が少ないと短時間でのアルバイトでも失業給付が減らされる可能性があるわけです。
再就職できたら再就職手当がもらえることもある
失業保険の期間中に一定の条件を満たして就職すると再就職手当金というお金がもらえます。
1)所定給付日数の2/3以上を残して早期再就職した場合
支給残日数×基本手当日額×70%=再就職手当金
2)所定給付日数の1/3以上を残して早期再就職した場合
支給日数×基本手当日額×60%=再就職手当金
仮に所定の給付日数が90日で給付を受ける前に再就職先を見つけることができたとしましょう。仮に日額5000円とすると、5000円×90日×70%=31.5万円が給付されるという事になります。
※2017年1月より再就職手当の給付率が引き上げられました。
再就職手当と失業手当を受け続けるのはどちらがいいの?
再就職手当は失業給付を受け続けるよりも早期の再就職をしたほうが、実際に働くことで受け取れる給料も考えると、失業保険の給付を受け続けるよりもお得になるように設計されています。
なるべくなら70%の高いレートで再就職手当を受けられるように頑張りましょう。
再就職手当を受けるための条件
また、給付を受けるには下記の条件があります。
- ①7日間の待期期間を過ぎた後の再就職じゃないとダメ
- ②離職した会社やその会社と密接な関わりがある会社への再就職はダメ
- ③給付制限がある場合、待期期間満了後1か月はハローワークまたは職業紹介事業者(※)による再就職じゃないとダメ
- ④1年以下の雇用期間で契約更新に目標達成等の条件がある場合、契約更新の見込みがない場合はダメ
- ⑤受給資格決定(ハローワークで最初の求職申し込みをするとき)の前から採用が内定していた会社への再就職はダメ
- ⑥再就職手当の支給日決定まで退職していたらダメ
正直そんなに厳しくないです。ただし、こちらも不正受給は3倍返しですので変な考えは起こさないようにしてくださいね。中には事業主と共謀するようなケースもあるようですが、立派な詐欺罪に問われます。
※職業紹介事業者
「厚生労働大臣の許可した有料・無料職業紹介事業者」である必要があります。所謂、転職エージェントと呼ばれることが多いです。再就職手当を受け取るには「紹介証明書」が必要になりますので、サービスを利用する場合はこれを発行してくれるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
再就職手当以外の就職に関する手当
再就職手当が失業保険受給中の再就職における本筋の手当ですが、それ以外にも再就職に関して「就業促進定着手当」と「就業手当」の2つの手当があります。
就業促進定着手当
・・・再就職手当を受給している方で、再就職後6ヶ月間に支払われた賃金1日分が、前職での賃金日額を下回った場合に給付される手当です。
就業手当
・・・基本手当の支給に数が1/3以上、かつ45日以上残っている場合で1年以内の就業が決まったときに受け取れる手当となります。再就職手当が受けられない仕事の場合でも受け取れる手当という事になりますね。
以上、会社を退職したときに気になる失業保険や失業中のアルバイト、再就職手当に関する基本をまとめました。参考になれば幸いです。
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