証券会社で口座を作るとき、基本は特定口座という株の税金の納付や申告を簡単にしてくれる口座を開設します。その特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし(要申告)」という二つのプランがあり自由に選択することができるようになっています。
この二つ、確定申告が必要か不要かという違いだけでなく、選択の仕方によって税負担の大きさだけでなく、他にも様々な影響を及ぼすことになります。今回はそんな株の特定口座における源泉徴収ありと源泉徴収なしとの違いを徹底比較していきます。
株の特定口座とは何か?
株式投資(証券会社)における特定口座とは株や投資信託などの売買における税金の計算や申告、納付を簡素化するために設けられている制度です。
特定口座を利用した株の取引については、売買益などの税金の計算が容易となる計算書類を作成してくれ、源泉徴収ありの口座なら税金の支払いまで代行してくれます。
このように特定口座は株式投資等の税金関連の計算を簡単にしてくれる口座になります。ちなみに証券会社に口座を開設する時には、この特定口座と、一般口座とを選ぶことができます。
一般口座はこうした税金の計算等を全部自分でやる必要があります。選ぶメリットはほぼ無いので必ず特定口座を選択するようにしましょう。
なお、口座開設の段階で
○特定口座(源泉徴収あり)
○特定口座(源泉徴収なし)
○一般口座
といったように3つから選ばせるケースがあります。特定口座の源泉徴収ありと源泉徴収なしは、暦年中(1月1日~12月31日)の初回の取引までは変更できるので、口座開設の段階ではどちらを特定口座であればどちらを選んでもよいです。
また、この記事で特定口座の源泉徴収ありと源泉徴収なしについて詳しく比較していくので、ご一読の上、自分にあった口座を最初から選ぶというのでもよいかと思います。
源泉徴収ありと源泉徴収なしの大きな違い
特定口座における源泉徴収ありと源泉徴収なしの大きな違いは何でしょうか?大きな特徴をまとめました。それぞれに、メリット、デメリットがあります。
源泉徴収あり口座の特徴
・確定申告はしなくてもよい
・利益は全額が課税対象となる
・株の利益(所得)は預金などと同様に所得としてカウントされない
・年間を通じて損失が出た場合の繰り越しができない(※)
※源泉徴収あり口座でも確定申告をすれば損失の繰り越しは可能です
源泉徴収なし口座の特徴
・証券会社が送ってくる計算表を基に確定申告が必要
・サラリーマンの場合20万円以下、主婦・無職・学生は38万円以下の利益なら実質非課税
・申告した所得は所得として扱われる
・損失は最長3年間の繰り越しができる
このように、色々な相違点があります。それぞれの特徴がプラスとなるのか、マイナスとなるのかはそれぞれの人が置かれている立場によって大きく変わってきます。なので、一律に源泉徴収あり口座がお得ともいえないですし、源泉徴収なし口座がお得とも言えません。
確定申告の有無
確定申告は1年の収入と支出を申告して税金を支払う手続きのことです。毎年2月16日から3月15日の間に行う必要があります。
サラリーマンの方などは会社が「年末調整」などの形でこうした申告手続きを代行してくれているので、社会人の方でも確定申告をしたことはないという方はおおいかもしれません。
証券口座で「特定口座(源泉徴収なし)」や「一般口座」を選択している人は、1年を通じて利益があれば申告をする必要があります。
確定申告と聞くとすごく厄介な物と思うかもしれませんが、株の売買に伴う申告は、証券会社から送られてくる「年間取引報告書」を元にして作るので大変簡単に作ることができます。
源泉徴収口座の場合は払わなくていい税金を払っていることもある
株式の売買や配当金に係る税率は20%(復興特別所得税を加算して20.315%)です。
源泉徴収ありの口座は「利益は全額が課税対象となる」と書いたように、年間の取引による利益が全額課税対象となります。一方で源泉徴収なし口座は「サラリーマンの場合20万円以下、主婦・無職は38万円以下の利益なら実質非課税」と書いたように、特定の条件下では課税額が少なくて済むことがあります。
サラリーマンの場合は20万円以下は申告不要
これについては「サラリーマンの20万円以下の収入なら確定申告しなくよてい(申告不要)は本当か?」でもまとめていますが、おもな収入が給与収入の方は、その他の収入の合計が20万円以下であれば確定申告をしなくてもよいという制度があります。
(1)年末調整を行っている
(2)年収が2000万円未満
(3)給与所得・退職所得以外の合計額が20万円以下
(4)2か所以上で給料をもらっている場合は、従たる給与とその他所得の合計額が20万円以下
この規定は株式投資の利益についても同じように適用されます。年間の利益が20万円以下であればその分の申告は不要です。
たとえば、「ふるさと納税(ワンストップ特例制度を使わない場合)」や「医療費控除の申告」「住宅ローン控除の利用(初年度のみ)」といった理由などで確定申告をするのであれば、株の利益が20万円以下であっても申告の義務があります。
なお、上記のリンク先でも説明していますが、申告不要制度があるのは国税のみで地方税にはその規定が無いので、税務署には申告しなくてもいいですが、市役所などで申告が必要になります。なお、この場合の税率は5%です(株の税率は所得税15%、住民税5%で構成されるため)。
無職、主婦、学生などは年38万円以下の利益部分は非課税になる
無職や主婦、学生のように他の収入が無い人(パートやアルバイトをしている人は別)については年間の株の利益が38万円以下であれば、基礎控除という税金を払わなくてもよい所得以下なので非課税となります。
アルバイトやパートをしている場合、年間の給与総額が103万円以下であればそこから65万円(給与所得控除)を差し引いた総額と基礎控除の38万円の差額が非課税対象額となります。
たとえば80万円の給与収入があるなら給与所得控除の65万円を引いた15万円が所得となります。基礎控除は38万円なので残りの控除額は23万円あるということになりますね。
個人事業主は源泉徴収ありがよい?
長い文章を読むのが嫌な方は、証券会社における特定口座の税金の支払い方法のところが「源泉徴収あり」になっているかどうかを確認して、なっていないなら源泉徴収ありに設定しておけばOKです。
理由は健康保険です。
国民健康保険料は所得によって計算されることになります。この所得というのは事業所得(給与所得)に対して申告分離で申告された所得も合算されます。
フリーランスの方が事業所得として300万円、株の儲けで100万円を申告した場合、国民健康保険料(税)の計算としては400万円の所得があるとみなされるわけです。
国民健康保険料は所得が大きいほど保険料も高額になるわけですから当然大ダメージです。
一方、株の税金の支払い方法を源泉徴収ありにしておけば、税金は「源泉分離課税」という扱いになります。これは銀行預金の利子などと同じ扱いです。分離課税なのでほかの所得と合算されません。
上記のケースでは株で100万円儲けたとしても300万円が国民健康保険料の計算の基本になります。
つまり、株でもうけた個人事業主やフリーランスは「源泉徴収なし」を選択すると保険料で損をするということになるわけです。
かならず、「源泉徴収あり」を選択するようにしてください。
申告した株の利益の「所得」としての扱い
株式投資による利益は源泉徴収ありは「株の利益(所得)は預金などと同様に所得としてカウントされない」としているのに対して、源泉徴収なしは「申告した所得は所得として扱われる」としています。
源泉徴収あり口座で申告した場合、株の利益は預貯金の利子と同じように扱われます。いくら税金を払おうとその税金は誰の所得であるということを決めないという制度になっています。
一方で源泉徴収なし口座の場合、税率は20%(20.315%)ですが、おさめられた税金は、○○さんが株で××円の所得があったため、20%(20.315%)分の税金を受け取ったというように、○○さんの所得としてカウントされます。
計算される税率自体は同じなのですが、これによる違いがいくつか出てきます。影響は人によって違いますのでパターン別に紹介します。
国民健康保険(国保)に加入している人
国民健康保険に加入している自営業の方などは源泉徴収なしを選択して確定申告して株の利益を上げると、健康保険の保険料がアップすることになります。
国民健康保険には各市区町村単位で加入していますが、この保険料は住民税上の所得に応じて課せられます。確定申告をして株の所得を申告すると国保の保険料も高くなるわけです。
一方で源泉徴収ありの場合は影響ありません。個人事業主とその家族のように国保に加入している方は源泉徴収ありを選択する方がよいかもしれません。
なお、サラリーマンが加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合)の場合、保険料はサラリーマンとしての4月~6月の平均収入(標準報酬月額)によって決まるため、申告したとしても保険料への影響はありません。
国保と健保の違いは「国保(国民健康保険)と健保(社会保険)の違いとどちらがお得かどうかの比較」でも紹介しています。
住民税所得割額による補助金等を貰っている場合
自治体が実施している助成金や補助金制度の中には所得制限を設けているケースもあります。こうした補助金や助成金を利用している人にとっても株の利益を申告して所得が増えることは悪影響につながる場合があります。
主婦、学生、無職のように誰からから扶養されている人の場合
主婦や学生、無職の方で配偶者や両親などに「扶養」されている人も注意が必要です。扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類がありどちらにも影響します。
税法上の扶養
38万円以上の所得がある人は扶養から外れます。なお、配偶者に関しては「配偶者控除の年収要件が150万円までに改正。得する人と損する人、働き方への影響」でも紹介したように2018年以降は60万円以上となります。
扶養から外れた場合は扶養している人が「配偶者控除」「扶養控除(特定扶養控除)」などが利用できなくなります。そのため、扶養者の税金が高くなります。なお、こちらは「無職、主婦、学生などは年38万円以下の利益部分は非課税になる」のところで説明したように、他の所得と合算して考えます。
パートやアルバイトをしている人はご注意ください。
社会保険上の扶養
第2号被保険者(サラリーマンや公務員)に扶養されている配偶者やその子どもなどが影響します。
社会保険上の扶養は収入の見込みが130万円以下です。こちらは所得ではないのですが、株の場合は利益部分が収入と計算されます。
こちら扶養から外れた場合、配偶者(妻)のケースでは「国民健康保険への加入と保険料負担」+「国民年金保険料の負担」が発生します。子どもや新族の場合は「国民健康保険への加入と保険料負担」が必要となります。
ちなみに、国民健康保険への加入が必要になった場合、保険料は住民税上の所得に応じて保険料がかかることになります。
ふるさと納税をしている場合
ここまではマイナスの面だけを説明しましたがプラスとなるところもあります。それは、ふるさと納税における自己負担2000円で寄付可能な上限額がアップするということです。ふるさと納税については「ふるさと納税の基本。特産品・特典をもらって得をする仕組み、計算方法」で詳しく紹介していますので制度についてよくわからない方はご一読ください。
株の申告納税する20%の税率の内、5%分は住民税になります。
100万円の申告利益がある場合は5万円分だけ住民税の支払いとなります。ふるさと納税の目安は住民税所得割額の2割なので、このケースだと1万円分ふるさと納税の寄付上限額がアップするということになります。
くわしくは「株式投資の利益でふるさと納税を利用する方法と注意点」でもまとめています。
株の損失の繰り越し
最後の違いは株の売買による損益の繰り越しです。
年間を通じて株式投資で損失が出たという場合、確定申告をすれば最大3年間繰り越しすることができます。今年損失が30万円出たとして来年の利益が100万円であれば、損失の30万円を翌年の利益と合算して、70万円の利益とするということができます。
なお、こちらは「確定申告が必要」になります。
源泉徴収なし口座の場合でも申告をしておけば翌年に繰り越しが可能です。逆に、源泉徴収あり口座の場合でも損益がマイナスだからといって申告をしなければ繰り越しはできません。
株の利益はマイナスだけど配当金・分配金がある場合
株や投資信託の売買損があるけれども配当金を受け取っている場合、確定申告をした場合には損益通算が可能です。
なお、配当金の申告については「総合課税とするケース」「申告分離課税とするケース」がありますが、株・投資信託の売買損と損益通算するのであれば申告分離とする必要があります。
また、源泉徴収あり口座の場合で下記の条件を満たしている場合には自動的に損益通算が可能となります。
- 取引証券会社は1社だけ(口座自体は複数あってもOK)
- 配当金の受け取り方式を「株式数比例配分方式」としている
同じ特定口座であっても源泉徴収あり、源泉徴収なし(確定申告をするかどうか)で税務上でかなり大きな違いがあるということが分かります。
一概にどれが損、どれが得とは言えませんので、皆さんがおかれている状況に応じて最適な口座を選択してください。
以上、株の特定口座の「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」を比較してみました。
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