サラリーマンとして社会保険(厚生年金や健康保険)に加入するという時、健康保険には「協会けんぽ」と「健康保険組合」の2種類があることをご存知でしょうか?このどちらかに加入しているわけですが、加入する健康保険によってルールや制度、保障などが変わってきます。
今回はそんな同じ社会保険でも異なる協会けんぽ(全国健康保険協会)と健康保険組合の違いについて紹介していきたいと思います。ちなみに、従業員の側から選択することはできません。会社単位でどちらに加入することになるかは決まっています。
協会けんぽと健康保険組合の基本的な違い
まず、協会けんぽは「全国健康保険組合(旧:政府管掌健康保険)」という組織です。ルールは全国共通ですが都道府県単位で運営されており、保険料率(健康保険料率)は自治体で異なります。同じ都道府県ならA社でもB社でも保険料は一緒です。
一方の健康保険組合はそれぞれの組合ごとに独自のルールで運用されており保険料率や保険料の負担割合も保険組合によって異なります。
一般的には中小企業などが協会けんぽを利用していることが多く、大企業などは健康保険組合を用意していることが多いです。
健康保険料の違い
まず大きく違う部分は保険料(健康保険料)です。
協会けんぽの健康保険料は収入に対しての保険料率によって決まります。平成28年度分は新潟県の9.79%が最低で、最高は香川県の10.15%となっています。なお、実際にはこの保険料の半分を事業主が負担するので、社会保険(健康保険)に加入している従業員の負担は半分の4.895%~5.075%となります。
一方で健康保険組合も収入に対しての保険料率という部分は同じですが、健康保険組合によって保険料率は様々です。健康保険組合が保険料率を外部に公開していることは少ないのでわかりにくいのですが、公開している日立健康保険組合のケースで見ていきます。
日立健康保険組合の保険料率は8.7%です。ただ、保険料負担は事業主が半分ではなく5%分を負担しているので従業員の負担は3.7%になります。協会けんぽのケースと比べって1~1.3%近く安くなるわけです。
単純に年収が500万円の人であれば、健康保険料だけでも5万円以上の差が生じることになるわけです。ちなみに、日立健康保険組合が極端に安いわけではありません。トヨタ健康保険組合の場合は従業員負担は3%です。
給付金の違い
健康保険の基本は病気やケガで通院した時には自己負担は基本3割です。7割を協会けんぽや健康保険組合が負担します。この負担部分を「法定給付」と呼びます。ただし、健康保険組合はそれぞれの組合において「付加給付」という制度があります。
付加給付がある健康保険組合の場合は実質的な自己負担がさらに減少します。
また、健康保険は病気やケガで仕事ができないときの「傷病手当金」や、医療費が月額で一定以上を超えたときの「高額療養費」といったように様々な給付があります。
このほかにも、「出産に関する給付金・補助金」などでも紹介したように出産育児一時金、家族出産育児一時金、出産手当金などもあります。
こうした給付金についても協会けんぽと比べて健康保険組合の場合は支給がより充実しているようなケースもあります。保険料の負担が小さいだけでなく保障面でも健康保険組合の方が充実しているケースが多いのです。
たとえば、NTT健康保険組合の場合は傷病手当金について
NTT健康保険組合では傷病手当金の期間が終了した後も、さらに最長で1年6ヵ月間休業1日につき支給開始月以前の「直近12ヵ月間の標準報酬月額平均額÷30」の3分の2相当額(※)が支給される付加給付制度として「延長傷病手当金付加金」を設けています。
とあるように付加金によってより充実した保険給付が受けられるわけです。
保養所などの福利厚生サービスも
協会けんぽにはありませんが、健康保険組合の場合は保養所などを提供しており、相場よりも安い金額で宿泊施設に泊まったりすることもできます。
他にもレストラン、スポーツクラブ、ゴルフ場などとも提携してお安く利用できることもあります。
以上から、正直言って比較する必要もないと思いますが、同じ社会保険(健康保険)であっても「健康保険組合>協会けんぽ」という図式となります。圧倒的に健康保険組合が有利です。
なぜ健康保険組合は有利なのか?
健康保険組合は企業単位(単一)、グループ単位(企業グループ)、業界単位(業界団体単位)といった一部の従業員を対象にした協会けんぽよりも小さなグループになります。
健康保険組合は集めた保険料で給付を行う必要があるわけですが、運営を効率的に行ったり、従業員の健康意識を高めて保険給付を抑えることで収支を改善することができます。一定の法的な制限はありますが、保険料を使って保養所を作ったりすることもできるわけです。
健康保険組合の場合、組織への帰属意識も高いため、保険を使わないと損というモラルハザードが起こりにくいという点も評価されています。
大企業の場合はこうしたサービスを活用することで、従業員の福利厚生の充実にもなって従業員満足度を高めることができるというプラス面もあります。
協会けんぽに加入しているんだけど、健康保険組合に入りたい
もしも、あなたが従業員なら正直どうしようもないです。健康保険は会社単位の制度です。
ただし、あなたが経営者であれば別です。自社だけで健康保険組合を作ることは難しいですが、業界団体ごとの健康保険組合も存在しています。
たとえば、関東ITソフトウェア健康保険組合は関東地方のIT・ソフトウェア関係の企業なら条件を満たせば加入できます。IT系は若い人が多いので保険金の給付が少なくて済むため、保険料が安く、保養施設なども充実しています。
ただ、注意したいのは会社が健康保険組合に加入して財政問題によって解散したとき赤字があれば、それは加入企業が負担することになります。以下で説明するように健康保険組合の解散も相次いでいるので性急な判断は控えましょう。
健康保険組合の解散が相次ぐ
一方で近年では健康保険組合の解散も相次いでいます。大きな理由は国庫負担の増加があります。後期高齢者医療制度によって高齢者医療への拠出金が健康保険組合に対して求められるようになり、健康保険組合の財政が悪化しているのです。
健康保険組合を自主運用することで得られたメリットが小さくなったわけです。一昔前は黒字の健康保険組合も多かったのですが、現在は7割を超える健康保険組合が赤字に陥っているという調査があります(健康保険組合連合会調べ)。
企業にとっても自前で健康保険組合を維持するメリットは小さくなっているのは事実のようです。
まとめ
今後もこうした健康保険組合が維持できるのか?継続するのかはわかりません。
少なくとも、健康保険組合の存続が厳しいところが増えているのも事実です。
ただ、従業員(社員)として働くことを考えると、健康保険組合に加入できる会社で働くほうが保険料負担は少なくて済むし、給付も充実、さらには保養所や各種福利厚生サービスも利用できるといったようにメリットが大きいです。
就職先や転職先を探すときにはそうした健康保険組合に加入しているか?というのも給料と並んで重要な要素になるかもしれません。
以上、協会けんぽと健康保険組合の違いをまとめてみました。
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