現在価値(げんざいかち)とは、将来受け取ることができるお金を現在(今)の価値に修正するといくらか?という価値です。10年後に100万円もらえるのと、今日99万円もらえるのとどっちがいい?と聞かれたら多くの方は後者を選ぶはずです。
感覚的にも理解できるように、将来のキャッシュは現在の価値に直すと価値が減少します。このように現在の価値に割り引かれた価値のことを「現在価値(現在割引価値)」と言います。こうした概念や考え方、計算方法、求め方を知っておくことは投資や資産形成、あるいは仕事をする上でもきっと役立ちます。
今回はそんな現在価値(現在割引価値)の計算方法や求め方のほか、どのような場面で活用されるものなのかを紹介していきます。
現在価値のしくみ
今日の99万円と10年後の100万円との間で前者の方が価値が高いと考えるのには様々な理由があります。
もっとも簡単なのは運用です。仮に99万円を運用することができれば10年後には100万円よりも価値が大きくなっているということは理解しやすいでしょう。
現在価値(割引価値)の求め方と利用方法
現在価値の求め方は、いわゆる複利計算の反対になります。リスクなく運用することができる利回りで複利の反対計算をすることで現在価値を求めることができます。
一定の将来に確実に受け取れるお金の現在価値計算式
現在価値=将来受け取れる金額÷(1+無リスク運用の金利)n年後
この式はよく知られているもので一般的な計算に利用されます。無リスク運用の金利というのは元本の変動なく運用できる商品ということで一般的には国債の利回りが用いられます。仮に無リスク運用の金利が1%だとした場合、10年後の100万円の現在価値はどうなるのでしょうか?
現在価値=100万円÷(1.01)10=100万円÷1.10462213=905,286円ということになります。
なので、10年後にもらえる100万円は今の価値にすれば90万5000円くらいと等価値という計算になります。
※あくまでも割引率を1%とした場合です。現在価値の計算は「割引率」という利率によって大きく結果が変わります。インフレ率が低い経済下では割引率は小さくなりますし、高くなると割引率も高くなります。
給料などを現在価値に直してみる
将来にわたって受け取れるお給料などを現在価値に直してみるというのも一つの手です。たとえば、転職先を決める時などに役立つかもしれません。
たとえ年収が高くても昇給が少ない会社、あるいは事業リスクや解雇リスクなどが高い会社の場合、見た目の給料(年収)が良くても現在価値に直してみると、年収が低い会社の方がよいかもしれません。
※あくまでもファイナンス理論的には……
現在の年齢が40歳だとします。
A社:年収1500万円
昇給率1%。定年は60歳。リスクは10%の能力主義の外資系企業
B社:年収600万円
昇給率3%。定年は60歳。リスクは2%のお堅い会社
ここでの事業リスクは割引率に換算したものです。10%の事業リスクというのは10%の利回りがある投資商品と同程度のリスクがあるという意味合いです。
A社の給料の現在価値
額面上の生涯給与は5億4199万円となります。
1500万円(昇給率1%)を年10%の割引率で現在価値に訂正して合計額を算出します。
1年目:1500万円
2年目:1515万円÷1.1=1377万円
3年目:1530万円÷1.21=1264万円
・・・
30年合計金額:17033万円
B社の給料の現在価値
額面上の生涯給与は3億1万円です。
600万円(昇給率3%)を年2%の割引率で現在価値に訂正して合計額を算出します。
1年目:600万円
2年目:618万円÷1.02=605万円
3年目:636万円÷1.0404=611万円
・・・
30年合計金額:21613万円
この計算だと年収の少ないB社に就職する方が現在価値は高いという計算になります。あくまでも現在価値は「割引率」で変わってきます。今回は事業リスクとして極端な値を出しているのでこのような数字になっています。
この割引率の計算ですが、別にその会社が外資系だから高いというわけではありません。
会社として解雇されるリスクはもちろん考慮しなければなりませんが、あなた自身が容易に転職できるというようなケースではリスクは高いとはいえません。
お堅い企業でもつぶしがきかない仕事しかしておらずその会社を頬り出されたら仕事を探すのも困難という人の方が実はリスクは高いかもしれません。
昨今、公務員という職が高く評価されるのは退職(クビ)になるリスクが極端に低いので割引率を計算するときにほぼ当初の割引率計算の国債利回り程度のリスクで考えればいいだけというのは大きいと考えられます。
年収はたとえ低くても安定している公務員の年収の現在価値は相対的に高くなります。
マンション購入の価格(現在価値)を検証する
マンションなどの不動産購入においても現在価値という考え方は重要です。
マンションを不動産投資として考える場合は収入となる賃料収入を現在価値に直すことでその価値を計算することができます。収益還元法という言われる方法で、物件価格計算法としてスタンダードになりつつあります。
戸建の場合は評価が難しいですが、分譲マンションなどの場合はもしかしたら分譲賃貸に出されている物件があるかもしれません。その賃料価格が収入です。
仮に年間の賃料から経費(税金や修繕積立金など)を差し引いた金額が年間80万円だとしましょう。
この賃料収入はずっとはいってくることになります。
n年後までの収入の合計は
現在価値=80万円÷{1-1÷(1+利回り)}nとなります。
計算を単純化するために、n=∞とすると、計算式は下記のようになります。
現在価値=80万円÷利回り
この利回りを仮に不動産投資のリスク相当として5%と仮定しましょう。このケースだと
現在価値=80万円÷5%(0.05)=16,000,000円
以上から、この物件の現在価値(市場価値)は1600万円程度ということが想定できるわけです。なお、この不動産価格の計算も「割引率(利回り)」を何%にするかで価値は大きく変わってきます。市場金利の低下などで不動産への期待リターンが減少すると割引率が低下します。
上記のケースで利回りを4%に修正すると価値は2000万円へと大きく上昇します。
収益還元法について、この方法は簡易的な計算方法になります。詳しくは「不動産の価値を知る。収益還元法による物件価格」で紹介しているのでこちらも御覧ください。
逸失利益を計算する
交通事故などのケースで、逸失利益(事故や不法行為がなければ本来得られたであろう利益)を計算する際も、割引価値にします。たとえば、交通事故で死亡したケースでは得られたであろう利益×年数の合計額を現在価値に直します。
損害保険会社などが計算する場合は法定利率が割引率とされます。2020年の民法(債権法)改正前までは5%(民事)、改正後は3%となっています。
仮に年収500万円の人が死亡した際の逸失利益の計算をするとしましょう(仮に利率を5%とする)。
1年目:500万円÷1.05
2年目:500万円÷1.05^2
3年目:500万円÷1.05^3
…
30年目:500万円÷1.05^30
といったように計算して合計額を計算するわけです。交通事故などでは中間利息控除(ライプニッツ係数)というものが利用され割引率が提示されています。
それをもとにして、〇年間の合計額に対しては年金原価係数という形で計算することができます。
リンク先で見れますが、利率5%かつ30年だと「15.3725」になります。この係数を年収で掛けやれば逸失利益(現在価値)がわかるという計算です。500万円×15.3725=7686万円となりますね。これが30年間の逸失利益となるわけです。
このように現在価値(割引価値)は様々な場面で利用されています。また、この概念や勧化方を自分の中に教養の一つとして取り入れておくことは、何かの場面で役に立つかもしれません。
以上、教養として知っておきたい「現在価値(割引価値)」の意味や求め方。
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