姻族関係終了届という書類があります。マスコミ等では「死後離婚」とも呼ばれる、姻族との関係を終わらせるという公的な届け出書類です。
配偶者と死別した後で離婚するという形になるのですが、今回はこの姻族関係終了届という書類の意味についてじっくりと説明していきたいと思います。最近は死後離婚として注目されていますが、遺族年金への影響や、その後の家族との関係などについて理解しておく必要があります。
姻族関係終了届=死後離婚とは?
死後離婚という言葉は公的には存在しません。あくまでも造語であり、姻族関係終了届を提出することを俗に、死後離婚と呼んでいます。
日本では、生後に出生届を出して戸籍を作り、死亡時に死亡届を出して戸籍を閉じます。
この戸籍というもの、結婚している場合1つの戸籍には1組の夫婦が入ります。
たとえば、筆頭者(夫)がいて妻がいて子供1人といいう場合は3人の戸籍ですが、子供が結婚した場合、親の戸籍から抜けて「夫婦で新しい戸籍」を作る形になります。
そして、離婚を選択した夫婦がいる場合、それぞれの戸籍は別々に分かれる形となります。一方で、夫婦が死別した場合の戸籍はそのまま残ります。
姻族とは?
血族(けつぞく)と姻族(いんぞく)という法律上の親族関係があります。法律上の親族の定義は「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」となっています。
血族というのは自分と血のつながりがある血縁関係のある親族で血縁者ですね。両親、祖父母、兄弟、子、兄弟の子、両親の兄弟といったような関係者です。
一方の姻族というのは婚姻関係によって生じた繋がりです。配偶者と配偶者の父母や兄弟などが該当します。
ちなみに姻族は配偶者双方だけの関係です。夫にとって妻の両親は姻族となりますが、夫の兄弟から見て妻の両親は姻族関係にありません。
姻族関係終了届を提出して姻族との関係を終わらせる
たとえば、夫婦で夫が先に死亡した場合であっても夫との姻族関係は終了することはありません。そのため、3親等内の姻族である「夫の両親」「夫の祖父母」「夫の兄弟」などとの姻族関係(法律上の親族)は残ります。
姻族関係終了届というのは、結婚・婚姻によって夫婦関係となって生じた姻族としての関係を終わらせるというものです。
なお、姻族関係終了届は本人(残された方)の意思のみで提出が可能です。ちなみに、逆側(義理の両親など)からの姻族関係終了届の提出はできません。
姻族関係終了届を提出する意味と意義
姻族関係終了届を提出する意味はどんなことがあるのでしょうか。実は死別した姻族(親族)との関係をそのままにしておくことで将来負担が生じることもあります。
- 夫(妻)の義実家との関係がそもそも良好でない
- 親族(姻族)の扶養義務を負いたくない
夫(妻)の義実家との関係がそもそも良好でない
死後離婚(姻族関係終了届の提出)に踏み切る理由として大きいのは、義理の両親や兄弟との関係を挙げる人が多いと思います。
夫婦死別をきっかけとして義理の家庭とは完全に一線を画したいという場合に姻族関係終了届を出す方がいらっしゃいます。
また、夫(妻)の実家とかじゃなくて、実際は仮面夫婦状態で子供のために夫婦関係を続けてきたけど本当は離婚したかった。戸籍が一緒なのは嫌だから死後離婚したいという夫婦間の関係で姻族関係終了届を提出される方もいるようです。
親族(姻族)の扶養義務を負いたくない
もう一つは法的な扶養義務の回避です。
民法では直系血族及び兄弟姉妹はお互いに扶養する義務があるとしています。また、特別の事情がある場合は3親等内の親族も対象に含まれます。
つまり、義実家の両親(兄弟)が経済的に困窮した場合などは扶養義務が生じる可能性があることになります。
姻族関係終了届を提出していれば、姻族ではなくなるので扶養義務は生じません。ただし、夫婦間に子がいる場合、その子は義実家両親との間で血族となりますので、子は義理の両親の扶養義務者(祖父母)となります。
姻族関係終了届を提出する際のよくある質問や注意点
姻族関係終了届を提出する際の注意点やよくある疑問をまとめています。
- 遺族年金への影響はない
- 夫(妻)の遺産相続は可能で返還も不要
- 義実家関係者との関係悪化は不可避で復縁はできない
- 姻族関係終了届を出しても戸籍自体はそのまま
遺族年金への影響はない
再婚する場合はとは違い、姻族関係終了届を提出したからといって、夫(妻)の遺族年金がなくなる、減らさせるということはありません。
夫(妻)の遺産はもちろん受け取れるし返還も不要
遺産相続への影響もありません。遺産相続を受けた後に、姻族関係終了届を提出するなら返還する義務もありません。
また、夫婦の間で子がいる場合、死後離婚を選択していたとしても、祖父母が死亡した際の子は代襲相続は可能です(そもそも配偶者には相続権はない)。
義実家関係者との関係悪化は不可避で復縁もできない
姻族関係終了届を提出し死後離婚するというのであれば、義実家の関係者との関係悪化は避けられないところになるでしょう。
夫(妻)の法事・法要などで顔を合わせる前提であれば、姻族関係終了届を提出して関係を断ち切った状態というのはかなり気まずいのではないでしょうか。
また、姻族関係終了届を提出したあとで、やっぱりやめたとすることはできません。何らかの誤解や勘違いで勢い余って死後離婚をしたけれども、実際は違っていて元の関係に戻りたい……と思っても後の祭りです。
姻族関係終了届を出しても戸籍自体はそのまま(旧姓に戻す場合)
姻族関係終了届を提出しても、変わるのは姻族との関係だけで、戸籍はそのまま(夫婦の戸籍)のままとなります。
結婚前の旧姓に戻したいという場合は「復氏届」を提出する必要があります。
両親が存命なら両親(結婚前)の戸籍に戻ることもできますが、戻りたくない場合(戻れない場合)は新しい戸籍を作ることができます。
ただし、夫婦間に子がいる場合、子はそのままの戸籍に残ります。子供の戸籍も自分の戸籍に入れる場合は「子の氏の変更許可申立」を提出して許可を受けた後に「入籍届」を提出して戸籍を写す手続きが必要になります。
死後離婚という選択で人生を自由に
姻族関係終了届の提出は、本籍地もしくは住居地の役所に提出するだけで完了する、割とアッサリとした手続きです。期限もないですし、提出した時点で姻族関係は終わりとなります。
姻族関係終了届(≒死後離婚)については、圧倒的に女性(妻)の側からの反響が大きいようです。
夫の両親と同居していたけど、舅や姑には散々いびられてきた。夫の死後も舅や姑の世話や介護をするのはまっぴら御免。そんな方にとっては、夫の死をきっかけに姻族関係終了届を提出(死後離婚)をして、夫の実家から出ていく。という選択肢もアリです。
夫の遺産相続はもちろん、遺族年金の受給に関してもマイナスとなる点はありません。
現在、義実家に住んでいるという場合、引っ越し費用等のお金の心配はありますが、夫の遺産の最低でも半分を受け取ることができるわけです。算段をつけてから、姻族関係終了届を提出して、義実家から出ていくというのは、自分の人生を歩くこともできるわけです。
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