2018年度の税制改正として所得税改革についての合意がなされました。基本的には全体で1000億円超の増税となる見込みです。増税の対象になるのは年収850万円を超えるサラリーマンです。一方で、子育て世帯などは増税とならないように工夫される見通しとなります。
また、年収850万円以下のサラリーマンは変化なし、フリーランスや個人事業主にとっては減税となります。今回はそんな2018年の所得税改革とサラリーマン、フリーランスへの影響を見ていきたいと思います。
2020年の所得税改革の基本的な内容
大きく「給与所得控除の見直し」と「基礎控除の見直し」の2点がセットになっています。
給与所得控除の見直し
まずは給与所得控除についてです。
これはサラリーマンにおける必要経費となり、収入(額面)から差し引ける課税上の経費です。収入-経費=所得となるため、給与所得控除が縮小されると、所得税や住民税などの税額が高くなります。
- 給与所得控除の上限額を年収1000万円から年収850万円までに引き下げる
- さらに、給与所得控除を一律で10万円削減
- (1)について子育て世帯(22歳以下の子どもなどがいる世帯は増税にならないようにする)
基礎控除の増額と所得に応じた減額
続いては基礎控除です。基礎控除はだれもが利用できる所得控除と呼ばれるものです。収入-必要経費=所得と計算されますが、この所得から差し引ける控除が所得控除です。所得-所得控除=課税所得となり、この課税所得に「所得税率」がかけられることで税額が決まります。
- 基礎控除10万円を増やす(給与所得控除の一律減分はカバー)
- 所得が2400万円を超えると段階的に縮小され、2500万円でゼロ
(2)については“所得”なのでほとんどの人には関係ありませんが、15万人ほど日本にはいらっしゃるようです。
ちなみに2018年の所得税改革ですが、これが実施されるのは2020年1月からです。
サラリーマンや公務員、自営業者にはどんな影響がある?
サラリーマンや公務員などの給与所得者は増税となる人、ならない人(変わらない人)がいますが減税となる人はいません。
一方で、フリーランスや自営業者などは基本的には減税となります。
増税となる人 | ・年収850万円超で22歳以下の子どもを扶養していない人 |
---|---|
変わらない人 | ・年収850万円超で22歳以下の子どもを扶養している人 ・年収850万円以下の人(パート含む) |
減税となる人 | ・所得が2400万円以下の自営業者 |
年収850万円以上の独身者やDINKSが増税
増税になる人はこのタイプです。年収が850万円以上で独身または子どもがいない家庭となります。
給与所得控除が1000万円(220万円)→850万円(205万円)となります。ここから10万円引かれて、10万円の基礎控除プラスとなるので、年収850万円以上の人は0~15万円分の所得控除が消えることになります。
実際にどれくらい税負担が増えるのかについては、他の控除によっても違いがありますが、所得税率は20%・23%・33%・40%・45%、住民税は10%固定となっています。そのため、増税の影響は年収が高くなるほど、累進的に増加することになります。
なお、増税の対象外となる人は下記のような人です。
- 22歳以下の子どもがいる
- 要介護3以上の介護を受けている人がいる
- 精神疾患などで特別障害者控除を受けている
上記の世帯は2020年の所得税増税では対象外で、以下の「所得金額調整控除」が行われます。
所得金額調整控除
(給与等の収入金額-850万円)×10%
収入金額は1000万円を上限
年収850万円以下のサラリーマン、公務員は10減、10増で変わりなし
たとえば、年収850万円のサラリーマンのケースをみていきましょう。
(2019年まで)
収入:850万円
給与所得控除:▲205万円
——————
所得:645万円
基礎控除:▲38万円
——————
課税所得:607万円
(2020年以降)
収入:850万円
給与所得控除:▲195万円
——————
所得:655万円
基礎控除:▲48万円
——————
課税所得:607万円
こうなります。どこで引き算をするかという場所は変わりますが、結果として10減、10増となりますので、課税所得には変化なしです。よって増税でも減税でもないということになります。
フリーランスや個人事業主は原則として減税(超高所得者は除く)
一方でフリーランスや個人事業主は減税となります。
所得から差し引くことができる基礎控除が所得税の場合の38万円が10万円増額されて48万円となります。
そもそも収入から差し引くことができる必要経費については確定申告を行って計算するものなので従来と同様とすると税金が10万円×税率分安くなります。
安くなる税金は所得税だけの計算で所得に応じて
- 課税所得195万円以下:5000円の減税
- 課税所得195万円以上:1万円の減税
- 課税所得330万円以上:2万円の減税
- 課税所得695万円以上:2.3万円の減税
- 課税所得900万円以上:3.3万円の減税
- 課税所得1800万円以上:4万円の減税
となります。
一方で所得(収入-必要経費)が2400万円を超える人は、48万円の給与所得控除が段階的に縮小され2500万円でゼロになります。なのでフリーランス、個人事業主であっても所得が2500万円の人は2020年以降は2019年以前よりも38万円×税率分増税となります。増税額は15.2万円~17.1万円(所得税のみの計算)となります。
その他はどんな影響がある?
基礎控除が拡大するということになれば、たとえば、株の売買益などについても少し影響があります。
たとえば、申告分離課税を利用する主婦のように収入がない人の場合、これまでは年38万円以下なら非課税だったものが年48万円以下非課税という形になります。なので、こうした人にとっては減税となりそうです。
給与所得控除の削減はどんどん進む
今回の所得税改革はそれなりに大きな規模で影響することになりそうです。
そもそも、給与所得控除については以下の記事でも紹介していますが、年々縮小されています。収入が高い人からとるのは正しいとも言えますが、どんどん引き下げられていくボーダーはいずれ他人事ではなくなるかもしれません。
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取りやすいところから取るという感覚は否めないですね。
労働収入に対する課税強化は階級社会の強化にもつながる
これは私の私見も交じっています。
相続資産などを持たない一般人からして、最大の資産は将来分も含めた労働の対価として受け取る給料であることに間違いありません。なので、普通の人がお金持ちになるには、この人的資本を高めることです。
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一方で、労働収入に対する課税強化(累進強化)は労働意欲を減退させるだけでなく、高収入を得ても税金として取られることで、資産形成が難しくなるという問題もあります。
普通の人がお金持ちになろうと思ったら、給料を増やして貯蓄に回し、それを運用で殖やし資産を構築するという方法がもっとも地道だけど確実な方法です。ところが、フロー収入部分の課税が強くなりすぎるとストックにお金を回すことができなくなります(できにくくなります)。
一方、ストックに対する税率は低い(株の配当金の税率は20%)わけですから、すでに資産を持っている人たちは有利です。
労働収入は資産運用収入よりも尊いなどとは言いませんが、勤労所得と金融所得への課税上の大きな差は階級社会をますます強化することになってしまうと思います。
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