株式投資において、投資先の企業から配当金が出ることがあります。この配当金は基本的に20%(20.315%)が源泉徴収された形で銀行や証券会社の指定口座に振り込まれたり、配当金受領証を受け取り郵便局で受け取ります。
この時の源泉徴収で配当金に対する課税関係は終了となります。ただし、確定申告をすることで配当控除の適用が受けられたり、株や投資信託の損失がある場合には損益通算ができたりするケースがあります。
今回は配当金を受け取った人向けの確定申告のメリット、デメリット、注意点などを紹介していきます。
株の配当金は確定申告をした方がお得か?
まず、株の配当所得についての税金は以下の3つの方法があります。
- 配当金に対する20%の源泉徴収で課税関係終了
- 申告分離課税の対象として確定申告
- 総合課税の対象として確定申告
何もしなければ(1)となります。
一方で確定申告をする場合は(2)か(3)のどちらかを選択する必要があります。この三つの方法の内、どの方法が一番お得なのか?ということは人それぞれの状況や立場によって変わってきます。
また、確定申告をすることで税金が安くなっても、配偶者の扶養から抜けてしまう……社会保険料(国民健康保険料)が高くなったなんていう別の問題が発生するケースもありますのでご注意ください。
一方で「株式投資の利益でふるさと納税を利用する方法と注意点」でも紹介したように申告をすることでメリットが生じるケースもあります。
※本記事では復興特別所得税の加算分はとりあえず無視して説明します。
1)配当金に対する20%の源泉徴収で課税関係終了
なにもしないケースです。国内株式の配当金については20%の源泉徴収が行われていますので、配当金については何もしないという選択肢もあります。
これが第一の道ですね。源泉分離課税となり、所得に影響を与えることはありません。預金の利息に対する税金と同じ扱いになります。
- 扶養に入っている方で所得を増やしたくない人
- 国民健康保険に加入している方
などはこちらのケースが相対的にお得になるケースが多いと思います。
2)株取引で損が出ているなら申告分離課税をで確定申告
続いては、税率は20%のままですが、申告分離課税として確定申告をする方法です。税率は同じなのですが、申告分離課税として配当所得を確定申告すると、株の儲けや損と損益通算が可能になります。
株や投資信託で1年間の間に損失が出ている場合、株や投信の損失と配当所得との間で損益通算が可能になるという制度を利用して節税が可能です。
株や投資信託の売買損が出ていれば使える
たとえば、株で20万円損をしている状態で、株の配当金の所得30万円を申告分離課税として申告した場合、損益が通算されて年間の利益は10万円となります。株の配当金の源泉徴収分(30万円×20%=6万円)の内、20万円×20%=4万円は余計に払っているとして還付されます。
なお、申告分離課税として申告した場合には配当控除は利用できません。
申告した場合「所得」扱いになるのでご注意
配当金を申告分離課税として申告した場合、その配当所得も所得として扱われます。これによって「配偶者や両親の扶養に入っている人」や「自営業者」の方は配当所得以外の影響が生じることがあります。
<配偶者や両親の扶養に入っている>
たとえば夫の扶養に入っている妻の場合、配偶者控除(配偶者特別控除)が利用できますが、確定申告することで所得が生じると扶養から外れることがあります。同様に大学生などで親の扶養に入っている人も同様です。
<自営業者の方>
自営業の方は、国民健康保険に加入していますが、この保険料は合算された所得で計算されます。申告することで配当の税金が安くなったとしても国民健康保険保険料がアップしてしまう可能性があります。
源泉徴収でも株や投信の損益と配当金を損益通算できるケースがある
上記のようなケースに該当する方は、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)の特例を利用しましょう。
申告分離課税を選ばなくても源泉徴収のケースで株や投資信託との間で損益通算できるケースがあります。
それは「特定口座の源泉徴収あり」を選択しており、配当金の受け取りを「株式数比例分配方式」としているケースです。
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こうしておけば、確定申告をしなくても、株の売買益と配当金を損益通算してくれます。
3)総合課税の対象として確定申告する
最後の総合課税の対象として確定申告するという方法もあります。総合課税というのは全ての所得を合算した上で、そこに所得税率(住民税率)を掛けて所得税を計算するというものです。
- 配当課税(分離分離課税):20%で固定(所得税15%+住民税5%)
- 総合課税:所得に応じて5~45%(住民税+10%)
総合課税をするときの税率は5~45%というようにその人の所得の大きさによって税率(限界税率)が変わってきます。
よって、所得が相対的に小さい人に関しては配当課税(源泉分離・申告分離)として課税されるよりも、総合課税を選択したほうが税率が安くなるのです。
配当金を総合課税で申告すると“配当控除”が使える
配当金を総合課税として申告する場合場合は「配当控除」という控除があります。配当所得の一定割合が所得税額から差し引かれるというもので、総所得が1000万円以下の場合、配当所得に対して所得税は10%、住民税は2.8%を算出税額から差し引くことができます。
平成29年(2017年)からは所得税分と住民税分を別々に申告可能
従来は配当金を総合課税の対象として申告すると国税(所得税)も地方税(住民税)もどちらも総合課税となりましたが、平成29年の改正により、別々とすることもできるようになりました。
これにより、所得税分は総合課税としたうえで、住民税は申告分離課税とするという方法を採用することもできるようになります。
実際のところ住民税は総合課税の場合、配当控除後でも7.2%になりますが、分離課税の場合は5%なので分離課税を選択する方がオトクになります。
総合課税を選択する方がオトクなケースが多い
総合課税は累進税率となっているため、課税所得が大きくなるほど税率も高くなりますので高所得者の場合は20%の分離課税の方が有利なケースもあります。
ただし、実際の税率を考えると多くの働きながら資産運用をしている人にとっては配当金は総合課税として配当控除を利用して申告をする方がオトクになります。
なお、課税所得の計算方法については以下の記事もご一読ください。
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総合課税を選択したときの配当控除後の実効税率は?
課税所得金額 | 所得税率 | 所得税 配当控除 |
実質税率 (所得税率) |
住民税率 | 住民税 配当控除 |
実質税率 (住民税) |
合計税率 (所得税+住民税) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | ▲10% | 0% | 10% | ▲2.8% | 7.2% | 7.2% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | ▲10% | 0% | 10% | ▲2.8% | 7.2% | 7.2% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | ▲10% | 10.21% | 10% | ▲2.8% | 7.2% | 17.41% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | ▲10% | 13.273% | 10% | ▲2.8% | 7.2% | 20.473% |
900万円を超え 1,000万円以下 | 33% | ▲10% | 23.483% | 10% | ▲2.8% | 7.2% | 30.683% |
1000万円を超え 1,800万円以下 | 33% | ▲5% | 28.588% | 10% | ▲1.4% | 8.6% | 37.188% |
1,800万円超 | 40% | ▲5% | 35.735% | 10% | ▲1.4% | 8.6% | 44.335% |
※所得330万円超の部分からは所得税に2.1%相当の復興特別所得税を含めて計算しております。
課税所得695万円以下であれば、総合課税として申告する方が得ということになりますね。特に330万円以下だと約1/3になります。
なお、上記は住民税も総合課税とした場合です。住民税の住民税申告不要等申出書などを利用して住民税分は「分離課税」とした場合、住民税分は5%固定になります。すると、税率は以下のようになります。
課税所得金額 | 所得税率 | 所得税 配当控除 |
実質税率 (所得税率) |
住民税率 | 住民税 配当控除 |
実質税率 (住民税) |
合計税率 (所得税+住民税) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | ▲10% | 0% | 10% | ▲2.8% | 5% | 5% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | ▲10% | 0% | 10% | ▲2.8% | 5% | 5% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | ▲10% | 10.21% | 10% | ▲2.8% | 5% | 15.21% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | ▲10% | 13.273% | 10% | ▲2.8% | 5% | 18.273% |
900万円を超え 1,000万円以下 | 33% | ▲10% | 23.483% | 10% | ▲2.8% | 5% | 28.483% |
1000万円を超え 1,800万円以下 | 33% | ▲5% | 28.588% | 10% | ▲1.4% | 5% | 33.588% |
1,800万円超 | 40% | ▲5% | 35.735% | 10% | ▲1.4% | 5% | 40.735% |
さらにオトク度が高くなります。所得330万円以下なら税率は5%となり、通常(分離課税)の1/4にまで税金が安くなります。
主婦(主夫)、学生の場合は税メリットがあるけど、扶養に注意
主婦(主夫)のように配偶者の扶養に入っている場合で他の収入が無い場合、配当所得が330万円以下であれば申告することで税メリットがあります。
一方で、主婦(主夫)の場合で、配偶者の税法上の扶養に入っている場合は一定以上の所得を申告すると配偶者の所得控除である「配偶者控除」が利用できなくなります。2018年以降は60万円を超える金額を申告した場合は配偶者控除の額が小さくなります。
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大学生のように親に扶養されている場合は扶養控除(特定扶養控除)が親に適用されているケースがあります。こちらも年に48万円以上の所得を申告した場合には扶養から外れてしまうので注意が必要です。
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国民健康保険加入者の場合は保険料負担の増加も
個人事業主の方や無職など年金の第1号被保険者に分類されている方でご両親や配偶者の社会保険上の扶養に入っていない方は、配当所得を申告することで、国民健康保険の保険料の計算対象となる所得が増加することで、健康保険料が高くなることがあります。
以上、株の配当金に対する税金と確定申告をするメリット、デメリットをまとめてみました。参考になれば幸いです。
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