結婚をしたパートナーと離婚や別居という選択を考えたとき、双方がいい意味、悪い意味でも考えておかなければならない問題があります。それは“婚姻費用(略称:コンピ)”です。
これは別居をしている場合でも夫婦であればそれぞれが同程度の生活水準を維持するために支払われる分担金です。収入が多い側から少ない側に払うものです。この婚姻費用については知らない人も多く、自分にイザが起こった時に知って、いい意味、悪い意味でビックリする方が少なくありません。
この記事を読まれている人がどのような立場の人なのかでとらえ方は大きく違うと思いますが、離婚や別居を考えているのであれば絶対に理解しておきたい知識です。ちなみに、結婚前にも知っておいた方が良いかもしれません。特に高収入な方!
婚姻費用(婚費)とは何か?
婚姻費用は夫婦が共同生活を送るために必要な費用で、民法第760条“夫婦は資産・収入などの事情を考慮して、婚姻費用を分担する”とある部分による費用で、別居中の夫婦の一方が、もう片方に対して収入が多かったり、あるいは子の養育をする場合に生活費として支払う費用です。
※以降この記事では説明を簡略化するために「収入の多い夫」と「専業主婦の妻」という流れで説明します。逆のケースでは説明も逆になると考えてください。
離婚を前提としている、しないに関わらず、夫婦はたとえ別居中であっても同じ生活レベルで暮らせるように助け合う義務があります。
それが婚姻費用(コンピ)になります。話し合いで決めることもできますが、今は「婚姻費用算定表」という裁判所が作ったすごく便利が表があります。
これを元に、夫が自身の収入に応じて婚姻費用(コンピ)を支払うことになるわけです。収入が高ければそれだけ婚姻費用も高くなります。
たとえば、夫婦と子1名(14歳未満)の場合、夫の年収が1000万円のサラリーマンでで妻が専業主婦の場合、婚姻費用は月額で16万円~18万円程度とされています。年収600万円なら10~12万円、年収400万円なら6~8万円とされています。
なお、婚姻費用と同じPDFで説明されている「養育費」は別物です。こちらは離婚後の子どもの生活のための費用であり、子の監護をしている者(権利者)がもう片方の親(義務者)から受け取る費用です。
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婚姻費用の請求方法
具体的な手続きについては、「裁判所に婚姻費用分担請求調停の申し立て」となります。婚姻費用は別居開始からではなく、請求したときからなので、婚姻費用を受け取れる妻はなるべく早く手続きをするべきです。
ここは多少費用が掛かったとしても弁護士さんに相談しましょう。
調停が成立した場合には、毎月婚姻費用を受け取れることになります。もしも、相手が支払いを怠った場合には給与の差し押さえなども可能なほど強力です。
婚姻費用はいつまでもらえる?
離婚が成立するまでもらえます(もしくは再度同居するまで)。
婚姻費用を受け取れる妻としては、離婚を受け入れず相手から婚姻費用を搾り取れるだけ搾り取るという戦略まで有効になってしまいます。
逆にすぐに離婚したい場合は、離婚調停と婚姻費用分担調停を同時に申し立てをして離婚の手続きを進めながら婚姻費用を受け取るということも可能です。
収入差があるケースでは事実上離婚でも妻に離婚してもらえないケースも
特に相手に社会的地位と収入があればあるほど、妻は離婚せずに婚姻費用をもらい続けるという戦略が大変有効になります。
たとえば、夫が浮気をして別居しているという状態の場合、有責配偶者である夫側からの離婚はなかなか成立しづらいです。妻としては離婚は受け入れないけど同居はしないという態度をとり続けることで何年もあるいは10年以上も婚姻費用をむしり取ることができるわけです。
逆に妻に有責の場合、離婚が認められる可能性もありますが、かたくなに認めず離婚調停、離婚裁判を続ければそれだけの期間は婚姻費用を受け取り続けることができます。ちなみに、仮に妻が有責だという事を認めていたとしても、婚姻費用の金額には影響はありません。
収入が少ない場合は婚姻費用は期待できない
逆に、相手の年収が低い場合はそれなりの婚姻費用しか受け取れません。
離婚調停中の妻が働いて収入があるけど、夫は無職という場合は妻が夫に婚姻費用を支払う必要があるという事も申し添えておきます。
離婚・別居は収入が少ない人が圧倒的に有利
日本の法律において、離婚や別居は“収入が少ない人が圧倒的に有利”という絶対的な現実があります。
別居中の婚姻費用は収入が多い側が少ない側に払う必要があります。また、一般的に離婚成立時の財産分与は収入が多い側の方が蓄財できているでしょうから、その分与もあります。
たとえば不倫・浮気、あるいはDV(家庭内暴力)などが原因の場合、「慰謝料」が生じることはありますが、それと婚姻費用は関係ありません。さらにいえば、裁判となった場合、不倫や浮気による慰謝料は、さほど高額になることは少ないです。
なので、別居や離婚調停(裁判)が長期化することを考えるとそうした慰謝料よりも婚姻費用の方が大きくなることが多々あります。「収入の多い側」「収入の少ない側」が別居、離婚をめぐって取るべき戦略とはどうなるのでしょうか。
なお、ここでは「お金のことをどうでもいいから、さっさと離婚して第二の人生を歩きだしたい」という感情は無視しています。
収入の多い側が取るべき戦略
なるだけ早く、離婚を成立させることです。
相手が有責配偶者(不倫。浮気などで別居・離婚の原因を作った)であれば、その決定的な証拠をつかんでおき、裁判となった時になるだけ早く離婚が認められるようにすることです。
また、婚姻費用についても有責配偶者からの請求については事情によって減額することができる場合があります。
離婚を切り出す前に証拠集めをしっかりとしておきましょう。相手に離婚を告げる前に弁護士に相談し、どうすれば手早く離婚できるかを考えましょう。
なぜ、不貞行為やDVの被害者側がこんな目に遭うんだ……と憤る方も多いと思いますが、現在の離婚・別居をめぐる“お金の問題”としてはこうなっているのが現状です。
逆に、自分自身が有責配偶者である場合、こちら側からの離婚が認められる可能性が低くなります。相手が、婚姻費用の存在を知っており、泥沼化させるつもりになると著しく不利になります。こうしたケースでは勢いで離婚を主張するのではなく金銭的には関係改善を図る方が得策である可能性があります。
収入の少ない側が取るべき戦略
なるだけ早く別居して婚姻費用を請求するが、関係修復を希望する(でも同居はしない)という状況をできる限り維持するのが金銭的には得策となります。
相手が有責の場合、相手からの離婚が認められる可能性は低くなりますので、そうした浮気、不倫、DVなどの証拠を集めておきましょう。こうしておけば、相手から離婚を主張されても離婚はしたくないけど、まだ信用できないから別居は続けるという主張が通ります。
一方で、有責配偶者の場合はそれを認めないことです。仮に認めた場合でも、それはそうでも関係修復を願っているという立場を維持しましょう。有責の場合、慰謝料の支払い義務はありますが、婚姻費用は受け取れる可能性が高いです(事情によっては減額されることもあります)。
また、子どもを監護している場合の監護費用は有責であろうがなかろうが関係なく、監護している側が受け取ります。
離婚調停、離婚裁判となってもそれは長期化します。裁判の終盤に多くのケースでは和解ということになるでしょうが、それは収入が少ない側が有利な条件となるはずです。
なお、今回の記事では「男性→女性」という形で婚姻費用が流れるという形で書いていますが、それは男性の方が収入が多いケースです。逆に、収入の少ない夫とバリバリのキャリアウーマンのようなケースでは婚姻費用は「女性→男性」に流れます。男女平等です。
結婚相手がお金持ちでも別居時・離婚時有利にならないことも
また、婚姻費用は資産の多寡ではきまりません。たとえば、夫の実家が大金持ちだけど夫は事実上ニートみたいな暮らしをしているという場合、夫に収入はないので婚姻費用は妻に渡りません。逆に別居して妻がパートでもして働きだしたら、無収入の夫から婚姻費用を夫から請求されるなんてこともあります……。
さらにいえば、夫自身の財産も結婚してから増えていないと財産分与もない可能性があります。
よく大金持ちと結婚することを「玉の輿」といいますが、離婚や別居の可能性まで考えると、既に出来上がったお金持ちの場合はそこまで有利ではないといえるかもしれません。
これから結婚を考えている人へ
まず、高収入の方は結婚するということはその相手(配偶者)に対して、愛が覚めてしまったとしても婚姻費用として数百万あるいは数千万を払う義務を負うということになります。
一方で逆に高収入の方と結婚する人はその逆に結婚した時点でその瞬間から数百万、数千万といったお金を受け取る権利を手にしたということになります。
まとめ。離婚・別居とお金は不条理
このように、離婚にかかるお金(費用)というのは、離婚の原因よりもどちらが多くお金を稼いでいるのか?という点の方が大きくなります。
サラリーマンの夫と専業主婦で妻が浮気して離婚という場合、一般的には有責の妻(と間男)が夫に対して慰謝料を請求することができます。ただ、その金額はそれによって別居となった場合でも100万~300万円くらいです。
逆に、サラリーマン側が高収入なら婚姻費用(コンピ)として毎月数十万もの金額を妻側から請求されて支払わなければならない可能性があります。離婚までに3年かかったとすれば総額で1000万円を超えるお金+財産分与をする必要があり、慰謝料を超えてしまうわけです……。
何れにしても、“離婚や別居を考えているのであれば、相手にそれを告げるのではなく弁護士等に事前に相談しておく”という事が有効です。
以上、離婚や別居を考えたときに知っておくべき婚姻費用(コンピ)のしくみについて紹介しました。
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