相続や終活を考えるときに、よく出てくるのが「遺言信託」と「遺言代用信託」です。名前は似ていますが、実際にはかなり違うサービスです。

ざっくり言えば、遺言信託は「遺言書を作り、保管し、亡くなった後に執行してもらうサービス」です。一方、遺言代用信託は「生前に契約しておき、死亡後に指定した人へお金を渡す信託商品」です。

どちらも相続トラブルを減らすための選択肢になりますが、できること、費用、向いている人は異なります。この記事では、遺言信託・遺言代用信託・家族信託の違いを整理しながら、どのように使い分ければよいかを解説します。

実際に、祖父母から孫などへ贈与する「教育資金贈与信託」なども含め、信託銀行の商品は相続・贈与対策の選択肢として注目されています。ただし、信託を使えば必ず節税になるわけではありません。目的を取り違えないことが大切です。

先に結論

  • 遺言信託は、遺言書の作成支援・保管・遺言執行を任せたい人向け
  • 遺言代用信託は、死亡直後の生活費・葬儀費用などをスムーズに渡したい人向け
  • 家族信託は、認知症対策や不動産管理など、生前の財産管理まで考えたい人向け
  • いずれも相続税そのものを大きく減らす制度ではない
  • 遺留分や相続人間の感情面を無視すると、かえってトラブルになることがある

遺言信託と遺言代用信託の違い

遺言信託と遺言代用信託は、どちらも信託銀行などが扱う相続関連サービスですが、位置づけはまったく別物です。

項目 遺言信託 遺言代用信託 家族信託
主な目的 遺言書の作成・保管・執行 死亡後に指定した人へ金銭を渡す 生前から家族に財産管理を任せる
使うタイミング 相続発生後の手続きを見据える 生前契約し、死亡後に受取人へ支払い 生前の認知症対策・財産管理から活用
対象財産 遺言書に記載する財産全般 主に金銭 金銭・不動産・株式など設計次第
費用感 初期費用・保管料・執行報酬がかかる 比較的低コストの商品もある 契約設計・登記・専門家費用がかかる
向いている人 相続手続きを専門家に任せたい人 死亡直後のお金の受け渡しを確実にしたい人 認知症対策や不動産管理まで考えたい人

信託銀行が提供する「遺言信託」は、法律上の信託そのものというより、遺言書の作成支援・保管・遺言執行を組み合わせたパッケージサービスとして使われることが多いです。一方、法律上の「遺言による信託」とは意味が異なるため、混同しないようにしましょう。

遺言信託は「遺言書と相続手続き」を任せるサービス

遺言信託とは、信託銀行などが遺言書の作成相談、遺言書の保管、相続発生後の遺言執行までをサポートするサービスです。

遺言書そのもののルールや法的効力については、以下の記事で詳しく解説しています。

遺言書の書き方と種類とそれぞれの効力遺言書を作成する場合、民法に規定してある遺言の方式は大きく3種類あります。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類です。 ...

遺言信託で任せられる主な内容

  • 遺言内容の相談・助言
  • 公正証書遺言の作成支援
  • 遺言書の保管
  • 死亡通知を受けた後の遺言執行
  • 相続財産の名義変更や分配手続き

相続人が多い、財産の種類が多い、遠方に住む相続人がいる、不動産や金融資産が複数あるといった場合は、遺言執行の負担が大きくなります。こうしたケースでは、信託銀行などの専門機関に遺言執行者を任せることで、残された家族の事務負担を軽くできます。

ただし、遺言信託を利用しても相続人間の感情的な対立が必ずなくなるわけではありません。遺留分に配慮しない遺言内容にすると、相続発生後に遺留分侵害額請求の問題が起こる可能性があります。

遺言代用信託は「死亡後のお金の受け渡し」をスムーズにする仕組み

遺言代用信託は、生前に本人が信託銀行などと契約し、金銭を信託しておく商品です。本人の生存中は本人が受益者となり、死亡後はあらかじめ指定した家族などが受益者となって、信託された金銭を受け取ります。

ポイントは、遺言書そのものを使わずに、契約に基づいて死亡後の資金移動を設計できることです。

遺言代用信託の主なメリット

  • 死亡後、指定した受取人へ比較的スムーズに資金を渡せる
  • 葬儀費用や当面の生活費の備えに使いやすい
  • 一括受取だけでなく、分割受取に対応する商品もある
  • 一部の商品では、受取人や受取方法を契約で指定できる

通常の銀行口座は、名義人の死亡を金融機関が把握すると凍結されます。相続手続きが完了するまで預金を自由に引き出せず、葬儀費用や生活費に困るケースもあります。

口座凍結時の注意点は、以下の記事でも紹介しています。

家族の死亡で銀行口座が凍結されたら?出金・解除手続きと引き出しのリスクを徹底解説銀行口座は、名義人が死亡したことが金融機関に知られると凍結されてしまい、入出金ができなくなります。引き落としや口座振替なども不可能になっ...

遺言代用信託を使っておくと、信託された金銭については、契約で定めた受取人に支払われます。死亡診断書や本人確認書類など、金融機関が求める書類は必要ですが、遺産分割協議が終わる前でも資金を受け取れる可能性がある点が大きな特徴です。

遺言代用信託の注意点:相続税の節税商品ではない

遺言代用信託は便利ですが、万能ではありません。特に誤解しやすいのが税金面です。

注意:遺言代用信託を使ったからといって、原則として相続税が非課税になるわけではありません。死亡後に受取人が受け取る信託財産は、相続税の課税対象として扱われるのが基本です。

また、遺言代用信託で特定の人だけに多くの財産を渡すように設計した場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。契約で受取人を指定できるからといって、相続人の権利を無視できるわけではありません。

利用前に確認したいポイント

  • 受取人を誰にするか
  • 他の相続人の遺留分に配慮できているか
  • 信託できる財産が金銭中心で足りるか
  • 最低預入金額や手数料が負担に見合うか
  • 相続税の申告・納税資金を別途確保できるか

相続税や贈与税の全体像については、以下の記事も参考になります。

生前整理とは何か?生前整理の必要性とやるべきこと、やり方生前整理という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 生前整理とは、自分が死後にその家族(遺族)が相続問題はもちろん、自分の自宅(空き...

家族信託との違い:生前の財産管理まで考えるなら別の選択肢

家族信託(民事信託)は、信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みです。たとえば、親が委託者、子が受託者となり、親のために財産を管理する形がよく使われます。

遺言信託や遺言代用信託が「亡くなった後」を強く意識した仕組みであるのに対して、家族信託は「生前の財産管理」までカバーしやすい点が特徴です。

目的 向いている制度・サービス
遺言書を確実に残し、執行まで任せたい 遺言信託
死亡直後の資金を家族に渡したい 遺言代用信託
認知症になった後の不動産管理も考えたい 家族信託
できるだけ低コストで遺言を残したい 自筆証書遺言保管制度など

費用の目安:遺言信託は高額になりやすい

遺言信託は、信託銀行の専門サービスを利用するため、費用はそれなりに高くなります。金融機関によって異なりますが、一般的には以下のような費用がかかります。

遺言信託でかかりやすい費用

  • 契約時の基本手数料
  • 遺言書の保管料
  • 遺言内容の変更手数料
  • 相続発生後の遺言執行報酬

遺言執行報酬は相続財産額に応じて決まることが多く、数十万円から、財産規模によっては100万円以上になることもあります。その代わり、相続財産の調査、名義変更、分配手続きなどを専門家に任せられる安心感があります。

一方、遺言代用信託は商品によって最低預入金額や手数料が異なります。比較的少額から利用できる商品もありますが、信託できる財産は金銭に限定されることが多いため、不動産や自社株などを含む相続対策には向きません。

低コストで遺言を残すなら自筆証書遺言保管制度も選択肢

相続トラブルを防ぐ目的であれば、必ずしも信託銀行の遺言信託を使わなければならないわけではありません。

自分で作成した遺言書を法務局で保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」もあります。この制度を使うと、遺言書の紛失や改ざんを防ぎやすく、相続発生後の家庭裁判所での検認も不要になります。

費用を抑えたい人は、まずは自筆証書遺言、公正証書遺言、遺言信託の違いを比較して、自分に合った方法を選ぶとよいでしょう。

公式情報も確認しておきたい方へ
遺言信託や遺言代用信託の基本的な考え方は、一般社団法人 信託協会「遺言信託」一般社団法人 信託協会「遺言代用信託」でも確認できます。自筆証書遺言書保管制度については、法務省の案内も参考になります。

どの方法を選ぶべきか

最後に、目的別におすすめの考え方を整理します。

目的別の選び方

  • 相続人同士の手続き負担を減らしたい:遺言信託
  • 亡くなった直後に配偶者や子へお金を渡したい:遺言代用信託
  • 認知症対策や不動産管理まで考えたい:家族信託
  • 費用を抑えて最低限の遺言を残したい:自筆証書遺言書保管制度
  • 相続税の申告・納税が心配:税理士など専門家への相談

遺言信託も遺言代用信託も、「誰に、何を、どのタイミングで渡すか」を明確にするための道具です。相続税を劇的に減らす魔法の制度ではありませんが、家族の手続き負担や資金面の不安を減らす効果は期待できます。

相続は、お金の問題であると同時に、家族関係の問題でもあります。制度のメリットだけでなく、遺留分、費用、他の相続人の納得感まで含めて設計することが大切です。

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ふかちゃん
マネーライフハック編集長。証券会社で個人向け金融サービスに従事した経験をもとに、2004年より金融・投資・クレジットカード・節約・ポイント活用に関する情報を発信しています。2011年からMoneyLifehackを運営し、2018年3月には月間200万PVを達成。金融サービスの提供側ではなく、利用者目線で実際に使って検証した一次情報をもとに、家計改善に役立つ情報を分かりやすくお届けしています。
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