株式の利益や配当と後期高齢者医療の負担を考える

株の配当や売却益について確定申告をしていなくても、後期高齢者医療の保険料や医療機関の窓口負担に反映する制度改正が進んでいます。
2026年10月16日に厚生労働省が示した日程案は、2029年8月から一部を反映し、2030年8月から対象の法定調書すべてを反映するというものです。

特定口座の「源泉徴収あり」は、株の税金の計算や納付を証券会社に任せられる仕組みです。
改正後の後期高齢者医療では、申告不要を選ぶことと、保険料などの判定から外れることが一致しなくなります。
一方、非課税のNISAの利益は今回の反映対象から除かれます。

2026年10月16日時点の制度と予定

  • 改正法は2026年5月に成立し、6月5日に公布済みです。
  • 2029年8月と2030年8月という日程は、同日の医療保険部会に示された「案」です。
  • 対象はまず後期高齢者医療制度です。国民健康保険や介護保険への同じ時期の一律導入が決まった、という内容ではありません。
  • 投資元本や保有株の含み益を、そのまま所得として足す改正ではありません。

金融所得を医療保険に反映する理由

金融所得は、株式の配当や売却益、債券の利子など、金融商品から生じる所得です。
今回の改正が対象にするのは、これまで確定申告の有無によって医療の負担判定に差が生じていた所得です。

現在は、対象の上場株式の配当や源泉徴収ありの特定口座の利益について、申告せず源泉徴収で課税を終えれば、市区町村の税の所得情報に表れない場合があります。
一方、配当控除や口座をまたぐ損益通算のために申告すると、その所得が把握され、保険料や窓口負担の判定に影響する場合があります。
同じ金融所得でも申告する人としない人で負担が変わるため、この差を解消する仕組みです。

確定申告とは別に所得情報が届く

金融機関
利益や配当の
法定調書を提出

所得を集計
個人ごとに情報を
照合して計算

広域連合
保険料や
窓口負担へ反映

金融機関などが提出する法定調書とは、所得の支払いなどを記載した税務上の報告書です。
特定口座年間取引報告書などの情報を、後期高齢者医療広域連合にもオンラインで報告する仕組みを設けます。
厚労省は、この情報連携のために個人の事務負担が増えるものではないと説明しています。

いつから始まり、何年の所得が使われる?

日程案は、情報の提出開始と、保険料などへ反映する時期を分けています。
法律上の施行期日は「公布後5年以内に政令で定める日」とされ、10月16日の資料では、オンライン提出義務を2029年1月に始める工程が示されました。

時期 日程案の内容
2029年1月 金融機関などからのオンライン提出を義務化する想定
2029年8月 2029年1月末に提出される、2028年分の年単位の金融所得を記載した法定調書を初めて反映
2030年8月以降 2029年2月から2030年1月末に提出される2029年分の情報を含め、対象の法定調書すべての金融所得を反映

初年度にすべての配当がそろうわけではない

法定調書には、翌年1月31日までに提出する年次の書類と、支払い後1か月以内などに提出する書類があります。
日程案では、特定口座年間取引報告書や利子等の支払調書などの年次提出分を2029年8月に反映します。
この年次提出分は、資料では法定調書の枚数ベースで約8割です。
高齢者の8割が負担増になる、あるいは金融所得の金額の8割を加える、という意味ではありません。

したがって、「2029年の利益から対象になる」と考えると、2028年分の年次情報が最初の反映に使われる点を見落とします。
逆に「2028年中の金融所得は初回ですべて反映される」とも言い切れません。
使われる書類と提出期限によって初回の範囲が異なります。

これらは2026年10月16日の工程案です。
政令、省令や実際の負担判定の案内が出るまでは、口座の種類ごとの最終的な取扱いと日程の変更を確認する必要があります。

対象になる利益と、NISAや預金の違い

改正対象の中心は、源泉徴収で課税を終え、確定申告をしていない上場株式等の配当や譲渡益、特定公社債の利子などです。
「投資をしている人はすべての資産に保険料がかかる」という仕組みではありません。

所得や資産 今回の改正での位置付け
課税口座の上場株式等の配当や売却益 申告していない対象所得も反映する中心的な対象。源泉徴収ありの特定口座も含む
特定公社債の利子など 申告していない対象所得も反映。株式だけの改正ではない
NISAで非課税となる利益 今回の金融所得反映の対象外
通常の銀行預金の利子 源泉分離課税の預貯金利子は、今回新たに反映する所得の範囲に含まれていない
預金残高や株式の保有残高 残高そのものを所得に加える制度ではない
まだ売っていない株式の含み益 通常の個人の株式投資では、保有中の値上がりだけで譲渡益は確定しない

すでに申告している金融所得は、現行制度でも判定に影響する場合があります。
「いままで入っていた所得に、同じ所得をもう一度そのまま足す」と計算することはできません。
申告情報との重複の除き方や損益通算、繰越損失の取扱いを含め、実際の計算の詳細が必要です。

個人向け国債の利子にも関係する

国債は特定公社債に含まれるため、個人向け国債の課税される利子も無関係ではありません。
預金と国債を比べる高齢者は、表面金利や税引後の利息に加え、医療保険の負担判定まで視野に入れる必要があります。
ただし、負担差は所得や世帯の区分によって変わるため、「国債より預金が必ず有利」とは決まりません。

預金と債券の元本の安全性、中途解約や換金の違いは次の記事で比べられます。

定期預金と債券の違いを、リスクや税金で比較する

保険料と病院の支払いは、どう変わる?

影響は、毎年の保険料と、医療を利用したときの支払いに分けて考えると把握しやすくなります。
金融所得が増えても、全員が同じ額だけ増えるわけではありません。

年間の保険料

所得割額や均等割の軽減判定への影響。上限に達しているかでも変わる。

窓口負担割合

医療費の1割、2割、3割のどの区分になるか。本人以外の世帯条件も関係する。

所得区分による給付

高額療養費の上限など、利用している制度の区分も確認する。

保険料は金融所得に一律の率を掛ければ済むわけではない

後期高齢者医療の保険料は、一人ずつ負担する均等割額と所得に応じる所得割額を基本とし、地域や年度で料率が異なります。
2026年度は医療分に加え、子ども・子育て支援金分もあります。
所得が増えて軽減の対象から外れる場合や、すでに賦課限度額に達している場合もあるため、単純な比例計算にはなりません。

2029年度の料率や個別の保険料は、今回の日程案だけでは確定しません。
過去の資料の試算額を、そのまま将来の請求額として家計に入れないようにしましょう。

窓口負担が1割から2割に変わる場合

仮に、保険診療の医療費総額が10万円で、高額療養費の上限などが適用されないケースを考えます。
1割負担なら1万円、2割負担なら2万円で、その受診に対する差は1万円です。
金融所得の反映で負担区分の境界をまたぐ人は、保険料の増加と別に医療費の支払いが変わり得ます。

一方、実際の支払いには高額療養費などが関係するため、年間の医療費が一律に2倍になるとは限りません。
所得区分ごとの上限や申請方法は、高額療養費制度の解説も合わせて確認してください。

税の「利益」と医療の判定項目を混同しない

株式の譲渡所得は、基本的に売却代金から取得費や手数料などを差し引いて計算します。
100万円で買った株を120万円で売り、手数料を省いた例なら、譲渡益は20万円です。

ただし現行の窓口3割負担に関する「基準収入額適用」の判定では、株式等の売却代金を収入として扱う場合があります。
譲渡益が少ないことだけで、医療のあらゆる所得判定への影響をゼロと考えないようにします。
今後の改正後の計算も、どの判定項目の金額かを分けて確認します。

影響を受ける人と、別の制度で考える人

まず対象になるのは、後期高齢者医療に加入している人です。
原則として75歳以上の人と、一定の障害があると認定されて加入する65歳から74歳の人が該当します。
現在は75歳未満でも、反映が始まる時期に加入する予定なら、取り崩す資産の口座区分を確認しておきましょう。

加入制度 2026年10月時点の見方
後期高齢者医療 今回の改正対象。未申告の対象金融所得も反映する仕組みを導入する
国民健康保険 現在でも申告による保険料への影響がある。今回の日程案を全加入者の開始日として使わない
会社の健康保険の本人 保険料は原則として標準報酬などで算定。今回の改正を、そのまま給与以外の投資利益への加算と捉えない
家族の健康保険の被扶養者 税の申告の有無とは別に、加入先の収入認定がある。従来からの注意点
介護保険 国会でも金融所得の反映を検討すべきとの指摘があるが、今回の後期高齢者医療の日程案と分けて扱う

NISAを使う場合に確認したい2つの点

国内株式の配当は受取方式も確認する

NISAの非課税所得は今回の対象外ですが、国内上場株式やETFなどの配当を非課税で受け取るには、証券会社で受け取る株式数比例配分方式を選ぶ必要があります。
銀行口座で受け取る方式などでは課税されるため、「NISAで買った」という理由だけで配当も非課税だと思い込まないようにしましょう。

NISAの配当を非課税にする受取設定を確認する

課税口座の株をそのままNISAへ移せるわけではない

課税口座で持っている株式や投資信託を、保有したままNISAへ直接移すことはできません。
売ってNISAで買い直すなら、その売却で課税口座の利益が確定し、税金や医療保険の判定に影響する場合があります。
NISAの年間投資枠と非課税保有限度額、売買の費用や価格変動も確認する必要があります。

今後も投資する予定がある人は、新たな買付けからNISAを使う方法を検討しやすいでしょう。
一方、近く生活費や医療費に使うお金まで、保険料だけを理由に値下がりする商品へ移す必要はありません。

売却や確定申告の前に確認する順番

  1. 加入する医療保険と時期を確認する。 現在の資格確認書などを見て、将来75歳になる時期も把握する。
  2. 資産を口座と所得の種類で分ける。 NISA、源泉徴収ありの特定口座、その他の課税口座を分け、売却益、配当、利子を一覧にする。
  3. 本人と世帯の通知書をそろえる。 保険料の通知、窓口負担割合、年金の源泉徴収票、年間取引報告書、繰越損失の資料を用意する。
  4. 大きな売却の前に、税金と翌年以降の負担を比較する。 売却代金だけでなく取得費と利益を把握し、広域連合の窓口には判定する年分と世帯構成も伝える。
  5. 改正後の計算方法が公表されたら再試算する。 使われる金融所得の範囲、損失の扱い、料率、窓口負担の基準を確認する。

2026年の確定申告は、2029年以降の工程案とは分けて判断します。
配当控除などの税額への効果と、現行制度で申告した場合の保険料への影響を比較し、申告期限に間に合う順番で確認してください。

金融所得の反映についてのよくある疑問

2026年や2027年から、未申告の株の利益が一律に加算される?

今回の10月16日の日程案は、2029年8月の初回反映、2030年8月からの全面反映です。
2026年や2027年にこの新しい情報連携で一律に加算する、という内容ではありません。
現在でも確定申告をした所得は保険料などへ影響する場合があります。

証券会社を変えれば、反映されなくなる?

今回の仕組みは金融機関などの法定調書を個人ごとに集計するものです。
源泉徴収ありの口座を別の証券会社に変えるだけで、対象所得が反映されなくなる仕組みではありません。

NISAを売って銀行へ出金すると、出金額が所得になる?

NISAで非課税となる譲渡益は今回の対象外です。
売却代金を自分の銀行口座へ出金する行為そのものが、新たな投資利益を生むわけでもありません。
ただし、介護施設の食費や居住費の軽減など、保有資産を別に確認する制度はあります。

医療の負担が増えるなら、国債や株を全部売った方がよい?

一律に売却する理由にはなりません。
売却で利益が確定することもあり、投資先を変えれば元本の安全性や利回り、換金条件も変わります。
医療保険の区分、生活に必要な現金、税金と運用の条件を合わせて判断しましょう。

ABOUT ME
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ふかちゃん
マネーライフハック編集長。証券会社で個人向け金融サービスに従事した経験をもとに、2004年より金融・投資・クレジットカード・節約・ポイント活用に関する情報を発信しています。2011年からMoneyLifehackを運営し、2018年3月には月間200万PVを達成。金融サービスの提供側ではなく、利用者目線で実際に使って検証した一次情報をもとに、家計改善に役立つ情報を分かりやすくお届けしています。
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